【チームリーダーの主張と悩み】
会社から早く帰りなさい、とよく注意される。でも、やらなくてはいけない仕事があるのに帰れない。チームメンバーに残業をお願いしても、いい顔をしてくれない。早く帰らないといけないムードなので強くも言えずリーダーとして手一杯・・・うちの会社は所定労働時間が7時間なので、1時間残業しても他の企業では普通のこと。それなのに残業を嫌がるなんて、社会人としてどうかと思う・・・
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働き方改革で長時間労働の見直し策が世間的に求められているため、仕事の采配、スケジュールのやりくり、残業を嫌がるメンバーに頭を悩ますチームリーダー。
そこで今回は、いわゆる法内残業の場合で残業命令を拒否することに正当性はあるのかどうかについて、詳しく確認していきたいと思います。
法内残業の命令拒否は正当性があるのか
いわゆる法内残業とは、労基法に定める労働時間よりも短い所定労働時間の場合、その所定労働時間を超えて法定労働時間に到達するまでの労働のことをいいます。
たとえば、所定労働時間が1日7時間の場合、法定労働時間の1日8時間に達するまでの1時間の労働のことをさします。
この法内残業については、36協定を必要としません。法律で決められた最低基準の労働条件を超えるものではないので、通常の時間外労働よりも要件が緩やかになります。
そもそも36協定や割増賃金の支払いは、労働時間の短縮、より良い労働条件を目的としています。そのため1日8時間を超える労働を原則禁止とし、それを超えるときには36協定で会社と社員の間で合意を取り交わし、割増賃金を支払うことが法律によって義務付けられているのです。
これらのことから、法内残業の命令を拒否する社員の正当性を判断するには、通常の時間外労働の場合と比べて範囲が狭くなります。法内残業は最低基準の労働条件である1日8時間のうちにおさまっているからです。つまり、社員が法内残業の命令を拒否するとき、通常の時間外労働のときよりも高度な理由が存在しなければ、その正当性が問われることになります。
とはいえ冒頭の例で言うと、リーダーとチームメンバーの間で、あらかじめ残業ができない日やその理由について詳しく共有しており、不測の事態にも対応できる余裕のある段取りができていれば問題には発展しなかった・・・とは思いませんか?
リーダーの仕事の抱え込み問題への対応
法内残業の命令の拒否に対する法律的な解釈は前段のようになります。
けれど冒頭のリーダーの真の悩みは、労働時間の短縮と仕事との兼ね合いです。この問題の根本はリーダーが仕事を抱え込むことにあり、これに対応しなければ問題解決は遠のいてしまいます。
「このくらい自分がやれば遅れはすぐに取り戻せる」、「小さな問題だから自分だけでやれる」といった判断から、リーダーがひとりで問題を抱え込めば、チームメンバーの育成につながらず、ずっと一馬力で頑張ることになるので長時間労働は避けられそうにありません。
リーダーが仕事を抱え込む問題に対応するには、日頃から、チームメンバーがお互いに担当する仕事内容を具体的に把握し、チーム内で課題の共有化を図ることがポイントになります。
たとえば、
- グループウェアなどを活用して、チームメンバーそれぞれの業務内容とスケジュール、その進捗をチームメンバー全員で共有する
- タスクの担当を複数メンバー制にする
- トラブルの確認、対応策の調整のためのコミュニケーションをとる定例ミーティングの場を持つ
- たとえメンバーから悪い報告があっても、リーダーは責めたり、放置しない(そうすることでチーム内の風通しがよくなる)
といった対策が考えられます。
冒頭のようなリーダーとメンバーのすれ違いは、上記の1)や3)で回避することができそうですね。
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法律の正しい解釈はコンプライアンス上とても大切ですが、リーダーが仕事を抱え込んで孤立しないよう、周囲と助け合いができるように仕事への取組み方を考えたいですね。
単なる「労働時間の短縮」を目指すのではなく、仕事の効率性を見直す機会にする必要があります。「やるべき仕事」を考えると、なかなかタスクの断捨離は進みません。「やらない仕事」をまず決めることがポイントとなります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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