
3か月後に退職予定のAさんが「退職日前に退職金を支給してほしい」と言ってきた。住宅ローンの繰り上げ返済のため急いでいるそう。こんな事情なら、早く退職金支払いの手続きをしてあげないとダメよね?!
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退職予定者から退職金について相談を受けた人事部のCさん。相手の深刻な顔つきに、退職金支払いについての稟議書を早く上司に提出しなければ!と腰を浮かします。
ですが人事部の先輩は、そんなCさんをよそに「就業規則を確認してからすぐお返事しますね^^」と冷静な対応。そう、人事担当者としてはまず退職金の支給時期の慣行について確認する必要があります。
そこで今回は、退職予定の社員から要望があったとき、退職日前でも会社は退職金を支払う必要があるのか、詳しく確認していきたいと思います。
労基法における退職金の取扱い

退職金の支給について、就業規則で明白に定められている場合、退職金は賃金に該当します。ですが、社内制度のひとつとして退職金制度を設けるかどうかは企業の自由です。
つまり、会社は退職金を必ず支払わなければならないという義務はありません。
このように退職金の支給の有無は企業の自由なので、労基法上は退職金制度を設けた場合のみ就業規則の記載事項とされています。
退職金の支払いにおいては、会社と社員の間で争いが生じることも多いため、労基法では退職金制度を設ける企業に対して下記の項目を就業規則へ明白に規定することが定められています。
- (退職金制度が)適用される社員の範囲
- 退職金の決定、計算および支払いの方法
- 退職金の支払い時期
退職金は、労基法上の賃金と取り扱われる場合でも、退職前は期待権というべきものにすぎません。一定の要件(解雇、退職、死亡等の労働契約の終了)を満たした場合に具体的な権利になる点で、月例賃金とは異なる性格を有しているといえます。
退職金の支払い時期

労基法23条1項では、「会社は、社員の死亡または退職の場合において、権利者(基本的には本人、死亡の場合は遺産相続人)の請求があったとき、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称を問わず、社員の権利に属する金品を返還しなければならない」との旨を定めています。
この趣旨は、社員の退職時における不当な足止めを防ぎ、社員(やその家族)の生活を守るために、その社員にかかる金品の支払い、返還を迅速に行うことの義務づけにあります。
退職金が労基法の賃金として取り扱われると、これにより退職者から請求があった日から7日以内に支払わなければならないように思えます。とはいえ、一般的に退職金は高額となるため、その支払いの準備のため一定期間が必要となりうるという現実的な問題があります。
そのため、通達では「通常の賃金の場合と異なり、あらかじめ就業規則で定められた支払い時期に支払えばよい」との旨が示されています。ですが退職金の支払い時期について、就業規則に明確な定めがなかったり、支払い時期に関する慣行がない場合、社員が「退職後に」請求してきたときには、請求から7日以内に支払う必要があります。
労基法23条1項は、社員が退職後に請求した場合について、その支払い時期を規定したものなので、社員が退職日前に退職金を請求してきても、これに応じる義務は会社にはありません。
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退職金の支払い時期について、退職後の守秘義務、企業の営業秘密の漏えいに対するリスク管理といった観点から、「退職後3か月にする」といった動きもみられます。
また、下記の点についても争いが多いので、支払いにあたってきちんと規定化しておくことが望ましいでしょう。
- 退職金の計算に異議がある場合の取扱い
- 会社の貸付金等が未精算の場合、退職金の支払いを留保するか


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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