
役員が仕入先から不正な利益を得ているのでは、との疑惑が持ち上がった。その役員は創業者である社長と昔からの友人で特別な関係にあり、人事部では積極的に触れてはダメな雰囲気が。こんな時こそ就業規則に基づいて、役員に制裁処分を行えないのかな?
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役員の問題行動(不祥事)に対して、就業規則に基づく懲戒処分を行うい、企業秩序を取り戻さなければならないと考える人事担当者です。
会社は企業秩序の維持のために、社員の違反行為の内容や程度を調査して、教育・指導によって改善することになります。ですが、そもそも役員には社員のように規律が求められていない(役員としての責務を果たせばよい)ので、どうすれば・・・。
そこで今回は、役員に就業規則による基づく制裁は可能か、また役員の問題行動への会社の対応について詳しく確認していきたいと思います。
役員に就業規則による懲戒処分はできるの?

多くの社員が働く職場では、連携プレーが求められるため秩序が必要です。会社はこの企業秩序を維持するために、違反行為があればその内容や程度を調査して、教育・指導によって改善を図ることになります。就業規則に基づく懲戒処分を行い、企業秩序を取り戻さなければならないこともあり得ます。
懲戒とは、簡単に言うと、「職場のルールを守ろうとしない社員に対して教育・指導するための制裁罰」ということになります。判例でも下記のような旨が示されています。
- 社員は、労働契約を締結して雇用されることで会社に対して労働提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守する義務を負う
- 会社は広く企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために、その雇用する社員の企業秩序違反を理由として、本人に対して一種の制裁罰である懲戒を課することができる
ここから、会社が懲戒権を行使するには本人(懲戒処分を受ける者)と会社との間に使用従属関係があることが前提であるとわかります。ですが、会社と役員(取締役)との関係は委任関係であり、取締役が「毎日〇時から〇時まで働きなさい」といった会社の指揮命令権に従って働くという使用従属関係にはありません。
よって、取締役に就業規則違反があったとしても、会社はその取締役を懲戒処分することはできません。
役員の問題行動にどう対応する?

冒頭の例のように、役員の問題行動に対して触れてはいけない雰囲気が職場にあり(←社員は役員の問題行動についてよく知っていたりする)、その処分が見送られたりすると、社員の会社への不信感や帰属意識の低下を招きかねません。
企業秩序の遵守を教育し、その違反を未然に防ぐことは、人材マネジメントにおいて重要です。ですが、まったく逆の「お手本」を示していることになります。
とはいえ、役員に就業規則違反があっても会社は懲戒処分を行うことができない・・・どうすればいいのでしょうか。
そもそも役員(取締役)は、会社との間の委任関係に基づいて、会社に対して善良な管理者としての注意義務と忠実義務を負います。取締役がこれらの義務に違反した場合には、会社や第三者に対する責任を問われることになり、代表訴訟によって株主から責任を追及される可能性もあるので、役員の任務を確実に遂行してもらなければなりません。
そのため役員の問題行動が生じた場合、会社としては事実確認や証拠固めを行い、役員自ら辞任届を提出してもらうか、取締役会において辞任の勧告等が行われることになります。社員の会社組織への不信感を払しょくし、帰属意識の低下を防ぐためにも適正な処分を迅速に行うことが会社には求められます。
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↓本文の補足です。
取締役でも「取締役工場長」「取締役総務部長」といったように社員兼取締役の場合、工場長や総務部長という社員としての地位については、会社の指揮命令を受けて働く範囲内で労働契約関係があるので、就業規則に基づく懲戒処分を行うことができます。


■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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