「資材部って、結構遅くまで残っている人いますよね?」
隣の部で残業していた人から聞いたひとことが気になる。資材部の課長から残業命令を出すことはほとんどない、と聞いていたから・・・
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管理職から聞いていた状況と異なる残業の実態を聞いて、戸惑いを隠せない人事担当者です。
所定労働時間内に仕事が終わらなくて、残業が恒常的になっていたような場合には、上司の具体的な指示がなくても、黙示の残業命令があったと判断されるケースもあるからです。
ただ、この点についてはケースバイケースであって一律に判断することは難しいため、さっそく資材部に話を聞きに行くことにしたのでした。
そこで今回は、どんな場合に黙示の残業命令として判断されるのか、詳しく確認していきたいと思います。
黙示の残業命令とは
上司(会社)が時間外労働命令を出していないのに、部下が職場に居残って定時を過ぎても(所定労働時間を超えて)仕事する・・・一般的にありがちな光景かもしれません。
そもそも社員は、会社からの業務命令がないのに所定労働時間を超えて働く義務はありません。法定労働時間を超えて働く義務は、なおさらありません。
労基法では「(1週間について40時間を超えて)働かせてはならない」との旨を規定しているので、会社が業務命令によって「働かせる」というのは、積極的な意思を示すことになります。
ですが問題は、会社の積極的な業務命令によらないで、「明日はバタバタするから今日のうちに先取りしておこう」「明日は予定があって絶対残業したくない」など社員が自分の都合や希望によって、自発的に定時を過ぎても居残って仕事をしている場合です。
上司等がそれを知っていながらも残業を止めさせずに放置していた場合には、その自発的な居残り仕事を容認し、会社の利益のために働かせたということで、会社の指揮監督下の労働として黙示的に時間外労働を命令したことになり、労働時間にカウントされるのでしょうか。
どんなときに黙示の残業命令として判断される?
会社による時間外労働命令は、「こういった形式でなければならない」と特別に決められているわけではないので、常に明示的に行われなければならないものではなく、黙示的なものでも認められます。
とはいえ、黙示的なものであっても会社の意思表示に基づくものと認められるものでなければなりません。黙示の意思表示とは、明確な言語や文字によらず、周囲の事情を解釈して初めて了解される意思表示をいいます。黙示の意思表示も原則として、明示の意思表示と同一の効力を持つため、表示行為とわかるものがなければなりません。
それは単に社員が職場に居残って残業しているという事実だけではなく、客観的に残業が必要であったという状況が認められなければなりませんし、「働かせた」と推測できる諸事情が追加されなければなりません。
その点について通達では、下記の旨が示されています。
【学校の校長から命令された仕事が、教員の正規の勤務時間内で終わらず超過勤務を必要とする場合、または学校の職員会議、各種委員会、運動会、特別教育指導等が正規の勤務時間内でできず超過勤務を必要とする場合について】
- 教員が学校の明白な超過勤務の指示により、または学校の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内ではこなせないと認められる場合のように、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる。
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以上をまとめると、一般的に黙示の指示があったと認められるのは、①業務上のやむを得ない必要性と②会社のそれを認める旨の意思が推定される場合となります。
このときには、事前の残業命令がなくても黙示の残業命令があったと解釈されるので、現実の時間外労働時間をもって労働時間としてカウントすることになります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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