営業社員には外回りがつきもの。取引先から会社に電話があったとき、担当の営業社員が外回りでいつも不在なのはよくないので、社用携帯を持たせている。・・・とはいえ、社用携帯に会社からすぐ連絡がつくわけだから、みなし労働時間制の対象外になってしまわないのかな?
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部下に社用携帯を所持させていることで、みなし労働時間制が適用されないのでは?と心配する営業課長さんです。
会社の具体的な指揮監督が及んでいる場合には、労働時間をきちんとカウントできるので、事業場外労働のみなし労働時間制は適用されないからです。
とはいえ、現代社会ではスマホ(携帯電話)が一般的に普及しているので、社用携帯を所持させているからといって、業場外労働のみなし労働時間制が適用されないのでは無理があります。
そこで今回は、社員に携帯電話を持たせているとみなし労働時間にならないのか、詳しく確認していきたいと思います。
携帯電話の所持とみなし労働時間の関係は
社員がオフィス外で働く場合、上司(会社)が労働時間を把握するのは難しいため、労働時間をみなし制によりカウントすることができます。
みなし労働時間とは、「その日の実際の労働時間にかかわらず、その日はあらかじめ決めておいた時間労働したものとみなす」制度です。この事業場外労働のみなし労働時間制の対象となるには、下記の2つの条件を充たすことが必要です。
- 会社を出て(事業場外)の仕事であること(外勤・外交・外務労働を意味する)
- 会社の具体的な指揮監督や時間管理が及ばず、労働時間のカウントが困難である、というシチュエーションであること
条件の2.について、会社が外回りに出かける営業社員に携帯電話を持たせて「これで連絡するように」と指示している場合、労働時間をカウントしようと思えば、商談が終わったころを見計らって電話して確認できるので、労働時間マネジメントが可能であるということで事業場外労働のみなし労働時間制に該当しないことになるのでしょうか。
実態が総合的に判断される
最近では、スマートフォンが普及していて所持していることが特別なことではないので、携帯電話を持たせていればみなし労働時間には該当しない、という見解は無理でしょう。
前段でお伝えした条件2.の「会社の具体的な指揮監督や時間管理が及ばず、労働時間のカウントが困難である、というシチュエーションであること」は、単に携帯電話を所持しているだけでは該当せず、それによって上司等に行動を報告・連絡させ、それに応じて指示する体制で業務が行われている場合をいいます。
つまり、上司等の支配のもと携帯電話等によってリモートコントロールされて、常時管理・監視されているという常態のことをいいます。それにより、「会社の具体的な指揮監督や時間管理が及んでいる」のかどうかを判断することになります。
判例においても、携帯電話の所持だけでなく労働時間の管理、把握、コントロールの総合的な実態判断がなされており、その内容は下記のようになります。
- 営業社員に対して社用携帯を所持させていたが、この会社ではタイムカードによって社員の出勤、退勤が管理されていた
- 営業社員は毎日午前8時15分から朝礼が行われてその日の業務が開始され、朝礼で営業方針などの指示が役員から行われることもあった
- 営業社員はその日の行動予定表を前日か当日朝に会社に提出し、出先から携帯電話で用件を済ませた旨の報告を会社に入れ、行動予定表の該当部分には用件が終了したことを示す線が入れられていた
- これらのことから、会社が営業社員の労働時間を算定することが困難であるということはできず、事業場外労働のみなし労働時間制の適用を受けないことは明らかである、と判断された
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事業場外労働のみなし労働時間制は、営業社員をはじめ外勤の社員を対象とした制度と思われがちです。ですが、内勤の社員であっても、出張や在宅勤務の場合には事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができます。
この点については、現場で誤解が生じがちなので、就業規則に規定しておくと混乱が少なくなると思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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