最近元気のない部下がいて、残業が多くなりすぎて長時間労働になっているらしい、と企画課の課長から相談があった。あまり眠れず動悸があって心療内科に通院しているそうだが、そのことについて本人から申告がなかったので、仕事の全体量を是正するなどの措置はとってこなかったらしい・・・
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メンタル不調を黙っていた部下への対応について他部署の上司から相談を受け、頭を抱える人事担当者。
このようなケースでは、会社が安全配慮義務違反に問われるのではないか?との思いが頭をよぎるからです。
そこで今回は、メンタルヘルス問題を会社に申告しなかった社員への対応について、詳しく確認していきたいと思います。
社員のメンタル不調と会社の対応
基礎疾患を有する社員がそのことを会社に申告しているかどうかに関わらず、会社は定期健康診断の実施等により把握した(あるいは把握し得た)健康情報に基づいて、従事する作業時間や内容の軽減、就労場所の変更など適切な措置を取らなければならない義務を負っています。
ですが、メンタルヘルスに関する問題については健康診断で明らかにならないことも多く、また本人にしても会社への申告をためらいがちです。自分のプライバシーにかかわる情報であり、人事評価に影響するかもしれないから黙っておいて仕事を続けよう、と考えるのも想像に難くありません。
そして通院や薬を服用しているといった情報は、社員にとってプライベートな情報であるので会社に申告する義務はありません。
だからといって、本人からメンタル不調について申告がないので会社は何にも対応しない、ということが許されるわけではありません。社員が過重労働にある場合やメンタル不調の傾向がみられる場合には、会社には速やかに業務軽減等の措置を取ることが求められます。
具体的にはどうなる?
会社には、社員からの積極的な申告がなかったとしても、健康診断の結果だけでなく日頃の様子から社員の心身の状態や業務負荷の程度を適切に把握し、それに応じて業務軽減などの対応を講じることが求められます。これに関する裁判例があり、内容は下記のようになります。
【通院していることや薬の服用等を申告せず、うつ病を発症し休職した社員】
(経緯)
- 入社以降、頭痛や不眠の症状があって内科・神経科に通院して薬を処方されていた
- プロジェクトリーダーに任命され、時間外労働が月60時間以上になる
- 症状が悪化してうつ病を発症、休職に至る
(判断)
- メンタルヘルスに関する情報は、社員にとって自分のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場で知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報といえる
- 会社は、必ずしも社員からの申告がなくても、その健康にかかわる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負う
- 社員にとって過重な業務が続く中で、体調の悪化が見過ごされる場合には、必要に応じてその業務を軽減するなど社員の心身の健康への配慮に努める必要がある
(結果)
- 社員は健康診断で体調不良を申告しており、同僚からみても体調が悪い様子だった
- 体調不良を上司に訴え、欠勤を繰り返し、業務の軽減を申告していた
- 会社は過重な業務によって、そのような状態が生じていることを認識できる状況にあった。しかし業務軽減などの措置もできたのに講じなかったため、会社の安全配慮義務違反を認めた。
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会社(上司)には、部下の日常の様子から心身の状態を適切に把握することが求められるとはいえ、どのような点に注意を払えばいいのでしょうか。たとえば、下記のような兆候に気づいたときには、時間を取ってゆっくり話を聴いてみることがポイントとなります。
- 以前と比べて遅刻が多くなった
- 顔色が良くない
- 口数が少なくなった
- 身だしなみが乱れてきた
- 昼休みに一緒に食事に行かなくなった
- 仕事の能率低下やミスが目立つ・・・・など
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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