不採算事業の見直しで人員削減の必要性があり、希望退職を募集することになった。だが募集を締め切ったところ、募集人数に達しない結果となってしまった。・・・削減予定数に満たないので余剰人員がいまだ発生することになり、どうすればいいのか?
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希望退職は、会社の「退職のお誘い」に対する社員側からの労働契約の解約申入れであり、会社の一方的な意思表示による解雇とは性質が異なります。
とはいえ会社が削減人数を明らかにし、希望退職を募ったものの募集人数に届かなかったので、その分を余剰人員ということで整理解雇できるのか?と頭を抱える人事担当者です。
そこで今回は、希望退職の応募人数が足りなかった場合、整理解雇における人員削減の必要性は認められるのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
削減予定数に満たない場合の人員削減の必要性
希望退職とは、労働契約を社員本人と会社の双方の合意に基づいて解約するものです。「応募基準(年齢や勤続年数など)」と「退職優遇条件(退職金の特別加算など)」の観点から制度設計されており、社員の自由意思を抑圧しない限り、整理解雇のような厳格な要件を課せられることはありません。
そこで、希望退職を募集したにもかかわらず、募集人数に達しなかったので、達しなかった分を余剰人員として整理解雇できるのかが問題となります。
(※整理解雇には、次の4要件(要素)が求められます。①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③整理手続きの妥当性、④整理対象者選定の合理性)
ですが、希望退職は社員本人と会社の双方の合意に基づくものなので、希望退職に応じなかったことを「社員間の不公平感を招く」といった理由で解雇を正当化することは困難です。
削減予定数を下回る場合に、その時点で再度人員を見直し、削減予定数を達成しなければ経営の立て直しに支障が出ると判断されるなら、余剰人員として人員削減の必要性が認められることになります。
ただし、裁判例では、人員削減計画に未達のため少数の者を解雇したケースのほとんどが、人員削減の必要性について否定的な判断がなされています。
削減目標に未達の人員数がごく少数の場合はどうなるの?
では、人員削減目標に未達の人員数がごく少数の場合、整理解雇はできないのでしょうか。
裁判例で整理解雇が無効とされている理由は、人員削減計画そのものについて疑問視されているからであって、人員削減計画を裁判所に理解されていないところにあります。
たとえ1人だとしても、人員削減の必要性があれば整理解雇ができないわけではありません。
下記の裁判例では、人員削減計画の内容が説明できるものなのかが問題であることを示しています。
【希望退職人員数に満たない1名を整理解雇にした事案】
- 生産量の推移から試算すると、余剰人員は50名程度と見込まれた。しかし、人員削減を最小限に留めたいとの考えから、さらに検討を重ね、最終的に希望退職人員数を30名に決定した。希望退職を募集すると29名が応じ、1名が未達となったため、1名を整理解雇にした
- 30名の人員削減が絶対に必要であったものと推認され、グループ各社が大幅な人員削減を実施していたことから、当社も着実に人員削減を実行している姿勢を示す必要性があった
- 1名の人員削減を行う必要性(本件整理解雇の必要性)がなかったとまでいうことはできない
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本文の記事では、削減予定数に満たない場合の人員削減の必要性について確認してきましたが、言わずもがなのことを改めてお伝えしますと、人員削減は社員の人生や生活に影響を及ぼすものです。
経営状況を勘案しながらも、慎重かつ十分な検討が必要です。すぐに倒産するという状況でない場合は尚更ですから、ご注意ください。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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