経営状況の立て直しのため、人員削減の必要性が出てきた。整理解雇を避けるため、関係会社へ出向させることにしたが、なかには拒否する社員も・・・どうすればいい?
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不況等の経営上の理由で人員整理の必要が生じた場合、会社が整理解雇を回避するため余剰人員を他の支店に配置転換したり、子会社や関係会社に出向させることは一般的によくあることです。
そんな解雇回避策である配転や出向を拒否する社員に対して、会社は解雇することが可能なのかが問題として浮上します。カギは、会社に配転命令権・出向命令権があるかどうかです。
そこで今回は、整理解雇を回避するための配転や出向を拒否する社員への対応について、詳しく確認していきたいと思います。
会社が配転命令権・出向命令権を持っているとき
社員に対する配転命令権や出向命令権について、就業規則に規定がある場合、会社は業務上の必要性に基づいて社員に配転や出向を命令することができます。
たとえば、職場で余剰人員が発生して他の支店や子会社・関連会社にこれを受け入れる余地がある場合、解雇を回避するための配転や出向は高度の「業務上の必要性」があります。その社員に著しい不利益を与えるなどの事情がなければ、その配転命令や出向命令は有効として考えられるので、これを拒否した社員を解雇できることになります。
とはいえ、会社が整理解雇を避けるために転勤や出向を命じた場合でも、本当は転勤や出向の必要がないのに形式的に発令したような場合には、実質的には退職勧奨として考えられます。たとえば「遠方への転勤や出向ならこれに応じないで自己都合退職を選択するだろう」と見越して、転勤命令や出向命令を出すような場合がこれにあたります。
このような配転命令や出向命令を拒否した社員に対する解雇は、一般的な業務命令拒否の解雇に正当性があるか、という観点からではなく、整理解雇の法理(①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③整理手続きの妥当性、④整理対象者選定の合理性)にかんがみて、その効力が判断されることになります。
会社が配転命令権・出向命令権を持っていないとき
会社が社員に対して配転命令権や出向命令権を持っていない場合は、整理解雇を回避するためであっても、配転・出向命令を出すことはできません。
たとえば、勤務地限定の採用であるとか、就業規則に出向命令にまつわる規定がない場合です。こういった場合には、配転・出向命令を拒否したことを理由とする解雇はできません。
よって、会社が配転命令権・出向命令権を持っていない場合には、通常の整理解雇と同じく整理解雇の法理(①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③整理手続きの妥当性、④整理対象者選定の合理性)を勘案して、解雇の効力が判断されることになります。
そのプロセスで、配転・出向の措置をとったことが解雇回避の努力として十分であったかどうかが検討され、他に解雇回避策がなければ解雇は有効となります。
なお、整理対象者選定の基準のひとつに「配転・出向を拒否した者」が設定され、これに基づいて解雇が行われた場合、その解雇が直ちに有効となるわけではありません。配転・出向のほかに解雇回避策がある場合には、配転・出向を拒否した者に対する整理解雇は無効となります。
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会社が配転命令権・出向命令権を持っている場合で、下記のような場合は「解雇は無効」と判断されることもあります。
- 整理解雇の回避のため社員に配転・出向を打診→社員が応じない態度を示す→社員が配転・出向に応じないということで解雇する
↑このポイントは、「打診」のみで配転命令、出向命令を実際に発令していなかったことにあります(実際には配転命令、出向命令を出していないのに解雇した)。
念のためご注意ください。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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