派遣社員のAさん、うちの仕事が終わったら他社でも働いているそうだ。今のところ、仕事に支障はないようだけど、うちの社員には就業規則で原則副業を禁止しているし、他社での仕事を辞めてもらえるようにはできないだろうか?
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他社でのアルバイトを辞めて、当社の仕事に集中してほしいと思う、派遣社員が所属する部署の上司です。
就業規則に原則副業を禁止する旨が定めてあるとはいえ、派遣社員に派遣先の就業規則が適用されるのでしょうか。
そこで今回は、派遣先が派遣社員に対して他社でのアルバイトを辞めるように命令できるのか、詳しく確認していきたいと思います。
自社の就業規則は派遣社員に適用されるか
「労働者派遣」とは、自社の雇用する社員を、その雇用関係を維持しながら他社(派遣先企業)の職場に赴かせて、他社の指揮命令を受けてその他社のために業務に従事させることをいいます。
自社の雇用する社員(派遣社員)を「労働者派遣契約」によって他社に派遣して、業務に就かせるものなので、派遣社員を他社に雇用させることを約束して、業務に従事させるものでないことが要件とされています。
つまり、派遣先と派遣社員には労働契約関係がなく、事実上の指揮命令関係しかありません。
就業規則は労働契約があることを前提として、社員に対して拘束力が及ぶものと考えられており、派遣先からみれば自社の社員については就業規則で拘束することができますが、労働契約関係にない派遣社員との間では就業規則による拘束は及ばないことになります。
たとえ派遣先で副業を原則認めない旨を就業規則において定めているとしても、この規定を派遣社員まで及ぼすわけにはいかないということです。
では、派遣会社(派遣元)から派遣社員に対して副業禁止の命令を出してもらうことはできるのでしょうか。
派遣会社が兼業禁止の命令を出せるの?
社員は、基本的には、労働時間以外のプライベート時間を自由に使うことができます。そのため最近の裁判例では、兼業・副業自体を会社が一方的に禁止することはできないとの考え方が主流です。
とはいえ兼業・副業には、「営業秘密の流出」「本人の過労」「会社信用の失墜」といったリスクが、会社と社員の双方にあります。そこで下記のような観点から、兼業の制約やこれに違反した場合の懲戒処分の有効性が判断されています。
- 社員の本業での誠実な労務提供に支障が出るか?
- 副業の内容によって企業の経営秩序が乱れるか?
- 企業の対外的な信用や対面が傷つけられるか?
以上を踏まえると、派遣会社(派遣元)から派遣社員に対して兼業禁止の命令を出してもらうことができるかというと、そのことによって派遣会社への労務提供に支障を生じているといった場合でない限り、派遣会社は兼業・副業禁止として拘束できないことになります。
たとえ派遣会社の就業規則において兼業禁止の規定があったとしても、派遣先での就労に支障をきたしたような場合でなければ、派遣会社は就業規則に基づいて兼業禁止とする業務命令を出すことはできないと考えられます。
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「問題:派遣社員は、誰に対して労務を提供する義務があるでしょうか」
派遣社員が実際に日々仕事を行っているのは派遣先なので、派遣先に対して労務提供の義務があるの・・・??
答えは、「派遣元に対して労務を提供する義務がある」です。そのため、派遣先への無断欠勤は派遣元に対する労務提供義務違反となります。
本文とあわせて、いまいちど確認の機会にしていただければと思います^^
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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