「職場でいっしょに働いてもらっている派遣社員さんは、派遣元の会社で健康診断を受けるから、来月の健康診断をうちの会社で受ける人は〇人。・・・じゃあ、うちには派遣社員さんの安全配慮義務はないってことなの?」
来月に実施する一般健康診断の準備に忙しい、人事部員のBさんです。「健康診断→働く人の健康→会社の安全配慮義務」と連想が働き、普段いっしょに働く派遣社員さんの安全配慮義務についてギモンが浮かんだのでした。
労働者派遣は雇用と使用が分離する形態なので、人材マネジメントにおいてややこしく感じる場面もあるかもしれません。
そこで今回は、派遣社員の安全配慮義務を派遣先と派遣元のどちらが負うのか、詳しく確認していきたいと思います。
労働者派遣における安全配慮義務
「労働者派遣」とは、自社の雇用する社員を、その雇用関係を維持しながら他社の職場に赴かせて、他社の指揮命令を受けてその他社のために業務に従事させることをいいます。そのため、「雇用」と「使用」が分離する形態となります。
この特殊な関係から、派遣法では派遣先を雇用主とみなす特例を設けています。労働災害が発生した場合の災害補償責任や、一般健康診断や長時間労働にかかる医師の面接指導等(安衛法による)を実施する責任は派遣元としながらも、社員の危険または健康障害を防止するための措置(安衛法による)については派遣先のみが責任を負うこととしています。
そもそも労働者派遣では、派遣社員が派遣先で派遣先の設備や器具等を使用し、派遣先の指揮命令に従って働くことになるので、派遣社員が働く場面で根本的に安全配慮義務を負うのは派遣先として解釈されています。
そのため、労働者派遣では業務上災害が発生した場合の責任について、「雇用」と「使用」の分離に対応して、「補償」(適法な行為によって生じた損害について損害を填補する)と「賠償」(違法な行為によって生じた損害を填補する)が分離した形態になるとされています。
派遣元の安全配慮義務
「補償」と「賠償」が分離した形態になるとはいえ、派遣元は派遣社員の雇用主なので、派遣社員に対して安全配慮義務を負っていることに変わりはありません。
そのため、派遣先の安全衛生管理が徹底されていないため労働災害が発生した場合で、派遣元も派遣先の安全衛生管理が不十分であったことを知り得た時には、派遣元は派遣先とともに安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うことになるでしょう。
そのことについて、裁判例では下記のような旨を示しています。
【派遣先での過重労働から派遣社員がうつ病で自殺した事案】
- 裁判所は、「使用者」には、雇用契約上の雇用主のほか、社員をその指揮命令下で使用するものを含むことを明らかにした
- 過重労働を放置したことについて、派遣先の安全配慮義務違反(注意義務違反)を認めた
- 派遣先における就業の状況を常に把握していなかったために派遣先に是正を求めたり、派遣の停止をしなかったことについて、派遣元の注意義務違反を認めた
**
労働者派遣の仕組みを知らずに、パート社員やアルバイト社員(自社雇用の社員)と全く同じ働き方だと誤解していると、派遣社員の仕事へのモチベーションを失わせる要因となることもあるでしょう。
働き方の多様化に伴い、会社には職場での適切な人材マネジメントのあり方を常に考えていくことが求められています。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事