ある社員が3か月前から音信不通となり、行方不明になった。ご家族のご心痛を思うと、せめて本人の未払い給与をご家族に支払いたいが、法律的にどうなんだろう?
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行方不明となった社員のご家族の生活状況を思い、未払いとなっている本人の給与の扱いに悩む人事担当者さんです。
というのも、労働基準法においては賃金の直接払いの原則があるからです。これは、社員本人以外の人に給与を支払うことを禁止しているわけですが、状況が状況だけに許されるのでは・・・?と気持ちが揺れるのでした。
そこで今回は、行方不明になった社員の未払い給与と直接払いの原則との関係について、詳しく確認していきたいと思います。
直接払いの原則とは
労基法24条1項では、賃金は原則として直接社員に支払わなければならないとしています(直接払いの原則)。
これは社員本人以外の者に賃金を支払うことを禁止しているものであり、会社が社員個々人にじかに賃金を手渡すことを求めているものではありません。
その趣旨は、親方等が賃金を代理受領してピンハネすることや、年少者の賃金を親が無理やり取り上げることの防止にあります。
よって、賃金を社員の親権者やその他の法定代理人に支払うこと、社員の委任を受けた任意代理人に支払うことは、いずれも労基法24条違反になります。社員が第三者に賃金受領権を与えようとする委任、代理等の法律行為は無効として解釈されています。
社員が賃金の支払いを受ける前に賃金債権を他の者に譲渡した場合でも、その支払いについてはなお労基法24条が適用されます。会社は直接社員に対して賃金を支払わなければならないので、賃金債権の譲受人は会社に対してその支払いを求めることは許されません。
使者に支払う場合
前段でお伝えしたように、社員本人以外の者に賃金を支払うことは直接払いの原則に違反しますが、例外として使者に対して支払う場合は問題ないとされています。
使者とは、社会通念上、本人に支払うのと同一の効果が生じるような者のことをいいます。たとえば病気で出社できないようなときに、本人の意思に基づいてその手足となって動く者として、妻子が賃金の受け取りを求めるようなときは、本人の使者と解釈されます。
とはいうものの、代理人と使者の区別はあいまいなので、銀行口座等への振り込みが認められている場合には、使者への支払いは認めるべきではないとする見解もあります。
以上をまとめると、行方不明の社員の場合、家族であっても本人の意思に基づく「使者」とは一概にいうことができないので、家族へ未払い給与を支払うことは直接払いの原則に抵触する可能性が高いといえます。
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繰り返しになりますが、賃金は直接社員本人に支払わないといけないので、代理人に支払うことは違法となります。
もし、同僚や本人の債権者等に支払ったとしても無効になりますから、本人から再度「給与を支払ってください」と請求があれば、二重払いとなるリスクが会社にあるということです。念のためご注意ください。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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