朝から職場で機器トラブルやネットワークトラブルが頻発しているので、テレワーク中の担当者に急きょ来てもらうことに。だが、出勤途中に運転操作を誤って電柱に衝突し、首に軽度のむち打ちを負った。会社はこの社員に対する安全配慮義務違反に問われるのだろうか?
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テレワーク中の社員に急きょ職場への出社を求め、例外的にマイカー通勤を許可したものの、その途上で社員が事故で負傷。「会社がわざわざ出社命令を出したのがまずかったのか?」と頭を抱える人事担当者さんです。
テレワークを行っている自宅から職場への移動時間に社員が事故に遭った場合、会社は安全配慮義務違反に問われるのでしょうか。
そこで今回は、テレワークからの移動中の事故と会社の安全配慮義務について詳しく確認していきたいと思います。
テレワーク中の移動時間
会社は、社員がテレワーク中であっても職場(オフィス)への出社を命じることができます。テレワーク中の移動時間については、厚労省のテレワークガイドラインで下記の旨が示されています。
- 勤務時間の一部でテレワークを行う場合、就業場所間の移動時間について社員による自由利用が保障されている時間は、休憩時間として取り扱うことが考えられる。
- テレワーク中の社員に対して、会社が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、会社が社員に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当する。
これによると、テレワーク中の移動時間に社員が事故に遭って負傷した場合、労災認定の対象になり得るということになります。
では、テレワーク中の社員に出社を命じ、自宅から職場への移動時間に社員が事故に遭った場合、会社に安全配慮義務違反が認められることになるのでしょうか。
実務的にどうなる?
前段でお伝えしたように、テレワーク中の移動時間に事故で負傷した場合、労災認定の対象になり得ますが、労災認定の対象になることと、会社が安全配慮義務違反に問われることとは別物です。労災認定されたからといって、当然に会社が安全配慮義務違反に問われるものではありません。
移動時間に運転操作を誤って事故に遭い負傷したとしても、その事故の原因となる運転をしたのは社員本人であって、会社が出社命令を出したことが負傷の原因ではないからです。
会社が出社命令を出したことと社員の運転ミスによる負傷との間には、相当因果関係(Aという行為からBという結果が生じることが相当であると考えられる場合にのみ、法律上の因果関係を認めるとする考え方)がありませんし、また会社が社員の運転ミスによる負傷を予見可能であったいうこともできないと考えられます。
したがって会社は、出社を命じたテレワーク中の社員が運転ミスによって事故に遭い負傷したとしても、出社命令を出すべきではなかったとの安全配慮義務を負うとはいえないでしょう。
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一般的に、マイカー通勤中の事故は個人所有の自動車による事故とはいえ、通勤のためのマイカーを仕事に利用する事実があれば、会社が責任を負う可能性は高くなります。(←自賠責法3条の「運行供用者責任(事故を起こしたときは運転者だけでなく、自動車を管理している者や自動車の運行によって利益を得ている者も賠償責任を負う)」が問われる可能性が高まる)
通勤車両の業務使用を厳しく禁止し、マイカー通勤はやむを得ないときの例外であることを明確にしていれば、マイカー通勤中の事故について、会社は使用者責任・運行供用者責任を回避できます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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