会社には、社員の生命、身体等を危険から保護するよう配慮する義務がある(安全配慮義務)。でもうちの職場ではなく他社で働いている出向社員はどうなるの?だって物理的に離れていて、日頃どんな様子で働いているのかわからないし・・・
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出向社員にまつわる安全配慮義務について、ふとギモンに思う人事担当者さんです。
出向(在籍出向)は、出向元の社員としての地位を持ったまま出向先で働かせるものなので、出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立します。
出向元企業の社員であると同時に、出向先の社員でもある出向社員の安全配慮義務について、どのように考えるとよいのでしょうか。
そこで今回は、出向先と出向元のどちらが出向社員の安全配慮義務を負うのか、詳しく確認していきたいと思います。
出向社員と出向元・出向先企業の関係
出向(在籍出向)とは、出向元企業で働く雇用関係のある社員を、出向元に在籍のまま出向先企業において、出向先の指揮命令に従って出向先の仕事をさせることをいいます。つまり、出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立します。
そのため、出向元・出向先・出向社員での三者間の取り決めによる権限と責任に応じて、出向元・出向先のそれぞれが使用者としての責任を負います。
出向社員は、前述のように、出向先企業における指揮命令やマネジメントに従って、実際の労務提供を行います。したがって、原則として、労務提供に関する部分については、出向先企業の就業規則が適用されます(具体的には、始業・終業時刻、労働時間、休日、休暇、安全衛生、災害補償など)。
これに対して、出向社員の労務提供を前提としない、労働契約上の地位に関するものについては、出向元企業の就業規則が適用されます(具体的には、定年、退職金、解雇など)。
では、二重の労働関係において、出向社員に対して安全配慮義務を負うのは、出向先と出向元のどちらになるのでしょうか。
出向社員の安全配慮義務
前段でお伝えしたように、出向社員は出向期間中、出向先の指揮命令に従って出向先に対して労務提供を行います。そのため、基本的には出向先が出向社員に対する安全配慮義務を負うと解釈されています。
出向社員は、出向元の業務命令で出向するとはいえ、出向期間中は出向元の具体的な指揮命令下において働くわけではありません。
そのため、出向元の安全配慮義務については、出向元が出向社員本人やその家族から出向先での厳しい労働条件や仕事の困難さなどについて相談を受けるなど、出向社員が出向先で心身の健康を損なうおそれのある業務に従事していることを知り得た場合等に限定されるべきだと考えられます。
出向元は出向社員の状態についての情報を入手したときは、出向元に出向社員の勤務状態や健康状態などを確認する義務が生じます。勤務の状況や身体の具合を確認した結果、休暇の取得など休養を勧めたり、医師の診断を受けるよう勧告する義務が生じるかもしれませんし、出向を取りやめにしなければならないこともあるかもしれません。
出向先に人事部がなく、出向元の人事部で出向社員の労働時間を集計していたため、出向元でも長時間労働を把握していたとして、出向元の安全配慮義務違反が認められたケースもあり、注意を払う必要があります。
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強いストレスや悩みを抱えている様子が出向社員から伺えるなら、メンタル不調からうつ病などの精神疾患に罹患するおそれも考えられます。
そこで、出向社員の状態についての情報を出向元が入手したにもかかわらず、本人の職務適性や職場環境などを考慮した適切な対応を講じなければ安全配慮義務違反に問われることもあり得ます。
出向元は出向社員の状態についての情報を入手したときは、情報の分析と適切な対応が求められることになります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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