新入社員のAさんがメンタル不調で出勤できなくなった。些細なミスに対して皆の前で立たされたまま先輩から大声で長時間叱責されたり、「こんなミスして給料泥棒」など人格否定もあった様子。人知れずかなり残業もしていたようで、今後どんな対応をとるといいのか?
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新入社員のメンタル不調、長時間労働、パワハラ問題・・・これからの対応に頭を悩ませる人事担当者さんです。
給与計算のためタイムカード上の記録は把握していたものの、労働時間マネジメントは所属部署に任せきりでしたし、先輩の暴言、執拗な非難についても、現場の指導方針に口出ししまいと一任してきたからです。
新入社員は仕事に不慣れなことから長時間労働になりやすく、新入社員に対する指導は一般社員に対するものより慎重さが求められます。
そこで今回は、パワハラ的な指導による新入社員のメンタル不調に会社がとるべき対応について詳しく確認していきたいと思います。
新入社員の不安に寄り添った指導を
厚労省のパワハラ指針では、パワハラにあたる例として「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」が挙げられており、新入社員に対する指導には、通常より慎重さが求められることがわかります。
新入社員は社会人としての経験が少ないので、「これくらい考えたらわかるだろう」といったことも、新入社員には全くわからないということもありえます。また、新しい仕事や人間関係に対する緊張や不安を抱えています。
そんななか、連日残業となったり、頻繁に厳しい叱責などを受けていると、業務により相当強度の心理的なストレスを負う可能性があります。
新入社員を指導する際にはこういった新入社員の不安を理解し、まずは仕事を覚えることに専念させ、厳しい指導は基本的に行わないようにすることが無理のない育成につながります。
また、仕事に不慣れな新入社員には長時間労働になりがちな傾向がみられます。そのため上司には、新入社員の労働時間をつぶさに把握することも求められるでしょう。
会社がとるべき対応は?
会社に健康被害の原因となるハラスメントや長時間労働について予見可能性(ある出来事が起こった時、事前にその出来事を予想できたかどうかの可能性)があることは、会社の安全配慮義務違反が認められる前提となります。
「会社がハラスメント等の事実を認識していなかっただけ」では、予見可能性が否定されるものではありません。認識できる状況にあったにも関わらず、認識していなかった場合には予見可能性が肯定されることになります。
冒頭の例では、新入社員のミスがきっかけとはいえ、皆の前で先輩社員から暴言、執拗な非難が行われていました。新入社員の指導として許容範囲を超えるパワハラといえます。他の社員の面前で行われていたことから、職場の規模によるとはいえ、会社は認識できる状況にあったと判断される可能性があります。また、長時間労働についてはタイムカードで把握できるものですから、会社は認識できる状況にあったといえるでしょう。
予見可能性が認められるなら、会社は長時間労働の是正措置やパワハラを防止する(業務配分の見直し、パワハラを行った先輩社員への注意指導、異動など)とともに、ハラスメントによる生命・身体等への被害を受けることがないようにする措置を講じる義務があったと考えられます。言い換えると、何らの対応がなければ安全配慮義務違反が認められるということになります。
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会社にとって、せっかく採用した人材が辞めてしまうと大きな痛手を受けることになります。
新入社員は不安いっぱいの中で仕事に取り組みます。
新入社員の職場や仕事への適応を促すため、育成側としては行き過ぎた指導がないか、長時間労働に陥っていないか、確認することを忘れずにいたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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