Aさんからテレワークに必要な椅子を購入してほしい、との申出があった。Aさんの家ではスチール製のスツールしかなく腰を痛めそうなので、オフィスで使用しているワーキングチェアが欲しいと・・・会社が椅子を買わないでAさんが腰痛になったら、会社の責任になるの?
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この会社のテレワーク制度では、自宅での作業に必要な備品は、社員それぞれの費用負担で準備してもらうことにしているので、Aさんの申出に戸惑う人事担当者さんです。
テレワーク時の備品等の費用については就業規則で社員負担と定めているので、Aさんにだけ備品の費用を支給するわけにもいきません。とはいえ、Aさんが腰痛になったとしたら会社に問題がある(安全配慮義務違反)のでしょうか。
そこで今回は、テレワーク時の作業環境と会社の安全配慮義務について詳しく確認していきたいと思います。
テレワーク時の作業環境
社員にデスクワークを行わせる事務所での職場環境は、事務所則による規制を受けるので、作業場における衛生基準を守ることが必要です。
テレワークでの在宅勤務の場合、自宅は会社が業務のために提供している作業場ではないので事務所則上の「事務所」にはあたりません。とはいえ、事務所則等で定める衛生基準と同等の作業環境となるようテレワークを行う社員に助言等を行うことが望ましいとされています。
そこでテレワークに必要となる備品等の費用負担について、もちろん社員に過度の負担が生じることは望ましくありませんが、個々の企業ごとの業務内容、物品の貸与状況等により、費用負担の取扱いは様々です。
そのため、会社と社員のどちらがどのように負担するか等についてはあらかじめ会社と社員の間で十分に話し合い、企業ごとの状況に応じたルールを定め、就業規則において規定しておくことが望ましいと考えられています(社員の負担とする場合には、就業規則にその旨の記載が必要です(労基法89条5号))。
社員の腰痛は会社の責任になるの?
安全配慮義務は、会社の指定した場所に社員が配置され、会社の供給する設備、器具等を用いて仕事することを前提に、社員が働く場所、設備もしくは器具等の使用、または会社の指示のもとで仕事する過程で、社員の生命と身体等を危険から保護するように配慮する義務として考えられています。
テレワークでの自宅の作業環境は、会社が供給する設備や器具等ではなく、会社の施設管理権の管理下にあるものではありません。また前段でお伝えしたように、自宅でテレワークを行うときの作業環境の整備について会社に法的な義務付けはありません。
そして、社員に腰の具合が悪い自覚があった場合、自分で椅子を買い替える、ストレッチを日常生活に取り入れるなどで症状の悪化を防ぐことができます。社員の腰痛の発生、症状の悪化の原因は、会社が新しい椅子を購入しない(費用負担しない)ことにあるとはいえないでしょう。
まとめると、会社がテレワークの作業環境を整備するための費用を負担しなかったことと、社員の腰痛との間に因果関係はなく、会社が社員に対する安全配慮義務違反に問われるものではないと考えられます。
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テレワークでは、社員が上司とコミュニケーションを取りにくい、上司が社員の不調に気づきにくいおそれがあります。
そのため、会社には社員が不調を訴えやすい健康相談体制を整えることが求められます。
特に、新入社員、中途入社の社員や異動直後の社員は、テレワークと出社を組み合わせるなど、コミュニケーションの壁をうまく乗り越えられるよう配慮したいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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