労働条件の明示はきちんとやらないとね。でも、昔はこんなんじゃなかったなあ?自分が働き手だったときも極端な話、「時給はこれくらいで、何時から何時まで、明日からいい?」「いいです」みたいな感じ。でも特にトラブルもなかった・・・なんで?(飲食店 オーナー談)
法改正により2024年の4月から労働条件の明示のルールが変わった(労働契約の締結・更新のタイミングの労働条件明示事項が追加されます)ので認識を改めながらも、口頭の合意のみで成立した労働契約でトラブルが発生しなかったことについて、ふとギモンを覚えるオーナーさんです。
その理由は、日本では就業規則で統一的に労働条件を設定することが広く行われていることにあります。
そこで今回は、就業規則が労働契約内容となることについて、詳しく確認していきたいと思います。
就業規則と労働契約の関係
たとえば支払い期限、売買の条件といった契約内容については、契約するときに当事者間で具体的に話し合って決めるものです。
とはいえ冒頭の例のように、いちいち具体的な条件までその場で交渉して取り決めていない労働契約なのに、トラブルが続出して困った事態になっているわけではなかったのはなぜなのか。
それは、日本では個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められていなくても、就業規則によって統一的に労働条件を設定することが広く行われているからです。
このことを法律上でも明らかにしたのが、労働契約法です。
同法第7条では「社員と会社が労働契約を締結する場合において、会社が合理的な労働条件が定められている就業規則を社員に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において社員と会社が異なる労働条件を合意していた場合、就業規則に達しない労働条件を定めている場合を除き、この限りではない(←つまり、就業規則を上回る基準の合意があったときは就業規則によらない)」との旨を定めています。
合理的な労働条件と就業規則の周知とは
前段をまとめると、下記の2つの要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となるという効力が法律で定められました。
- 合理的な労働条件が定められている就業規則であること
- 就業規則を社員に周知させていたこと
上記1.の「合理的な労働条件が定められている」とは、契約締結時の就業規則において、違法な条件や公序良俗に反するものでなければ合理性が推定されることになります。
上記2.の「社員に周知させていたこと」とは、労基法第106条の方法による周知方法をとっていなくても、何らかのかたちで実質的に知らせていたことをいいます。
※(注)「労基法第106条の方法による周知」とは、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付すること等の方法によって、社員に周知することです。
このことは、採用された社員がその会社に就業規則があることを知らなかったり、また内容をよく読んでいなくても同じことです。言い換えると、就業規則が会社に存在して実質的に周知されているかぎり、その会社の就業規則を内容とする労働契約を結んだことになります。
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「本文の内容は↑労基署への届け出を怠った就業規則でもいえるの?そんな就業規則は有効なの?」・・・と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
就業規則を作成しながら労基署への届出を怠っている場合、その就業規則は有効なのかという問題ですね。ズバリ、就業規則は労基署への届出を効力発生の要件としているのではありません。
労基署への届け出をサボると行政取締法違反で労基法上の罰則を受ける対象となりますが、それだからといって社員に対する効力をもたないわけではないのです(必ずしも労基法第106条の定める周知方法と同一の方法による必要はなく、ケースバイケースで適した方法によって社員一般に知らされていれば有効)。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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