人件費の削減に迫られる中、できる限りよそで雇用維持してもらえるようサポートしたいので、関連企業や取引先と交渉して、転籍を実施することになった。対象の社員たちに退職金を上乗せ支給して退職してもらったが、そのうちのひとりが転籍先の面接で断られてしまった・・・
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在籍出向ではなく転籍出向というかたちをとったものの、転籍を予定していた企業から採用を拒否され、対応に戸惑う元の会社の人事担当者さんです。
転籍先での受入れがかなわなかったので、退職金も支払ったものの、元の会社からの退職(労働関係の解消)は認められないことになるのでしょうか。
そこで今回は、転籍先企業と労働関係が成立しなかったときの会社(転籍元)のとるべき対応について詳しく確認していきたいと思います。
転籍とは
転籍とは、社員と従来の雇用関係のあった企業との労働関係が解消され(退職)、新たに他の企業に雇い入れられる(採用)ことです。
元の会社の退職と新たな会社への就職が法的な関連性をもって同時に行われるものをいいますが、この「関連性」とは、転籍先企業との労働関係の成立(採用)と元の会社の労働関係の解消(退職)とが法的な条件関係にあるということです。
つまり、転籍先での受入れ(雇用)を停止条件(条件が成就するまでの間、法律効果の発生を停止しておく条件)とする元の会社の退職であるといえます。
このように転籍とは、「退職・雇用」にまつわる労働契約の解消と新契約の締結という、本来は社員の自由にゆだねられている法律行為なので、企業内異動の転勤などの場合のように会社側が一方的に命じることはできません。
社員としての地位を失うものなので、出向の場合のようにあらかじめ就業規則で明白な定めをすること(根拠づけ)で、社員に出向命令に応じる義務が生じるという性質のものでもありません。あくまでも社員本人の明示または黙示の同意が必要となります。
転籍先での受入れを断られたときどうする?
前段でお伝えしたように、転籍では社員と元の会社との労働契約の解消と転籍元企業との新契約の締結は相互に関連しています。
そのため、転籍先企業と社員との間の新しい労働契約が締結されなかったときは、元の会社との合意解約の効力も生じないことになります。
社員が転籍先企業から採用を拒否され、転籍が実現しなかったので社員と転籍元企業との間の雇用関係は依然として存続している、とした裁判例が参考になります。
【社員が転籍を承諾したが、転籍後の企業における雇用条件、転籍時期について何も決まっていなかった段階で転籍先業から採用を拒否された案件】
- 社員が転籍先企業に雇用される意思を持っていて、転籍先企業がその社員を雇用する意思がある点で一致していたとしても、転籍先企業との雇用関係が成立したというためには、それだけでは足りない
- 特段の事情がない限り、就労の場所、就労の態様、賃金等の雇用契約の重要な要素について確定的な合意が不可欠である
- 転籍後の雇用条件がほとんど何も決定されないうちに転籍先の企業から採用を拒否されたというのでは、社員と転籍先企業との間に雇用関係が成立したと認めるのは困難である
- 社員の転籍元企業での退職と、転籍先企業での採用は相互に条件づけられる一体的な関係にあるものと解するのが相当である
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「元の会社に戻ってくるのに、すでに支払った上乗せの退職金はどうなるの?」
繰り返しになりますが、転籍に同意した社員が転籍先企業から採用を拒否されると、元の会社からの退職は無効となります。
元の会社との労働契約が存続していることになるので、当然に支払った退職金の返還を本人に請求できます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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