社員のCさんが通勤経路を変更したのに会社に申告しないで、本来よりも多い額の通勤手当を5年間不正受給していたことが判明した。差額は1か月あたり2千円くらいだったようだが、やはりこれは懲戒解雇を検討しなくてはいけない案件なのでは・・・
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通勤手当の不正受給が、就業規則に定める懲戒規定の「重大な虚偽の届け出または申告を行ったとき」にあたり、懲戒解雇にするべきでは(ほかの社員に示しがつかない)・・・ということで判断に迷う会社側。
通勤手当の支給について、社員の自己申告による(自宅から会社までの経路を本人が申告する)場合、こういったトラブルが起こりがちです。
そこで今回は、通勤手当の不正受給で懲戒解雇にして問題はないのか、詳しく確認していきたいと思います。
通勤手当の詐取にまつわる裁判例
通勤手当の支給にあたっては、社員の申告に基づくのが一般的ですが、虚偽の申告によって本来よりも多い額の通勤手当を受け取る・・・といったトラブルが生じることがあります。
通勤手当の詐取(だまし取ること)を理由とする懲戒処分、解雇、詐取した通勤手当の返還請求が争われた裁判例は数多くあります。
判例において、きわめて情状が悪く、多額・長期にわたって通勤手当を不正に詐取していたような事案については、懲戒解雇を含めた重い懲戒処分を認める傾向にあります。
ですが、通勤手当の不正受給に関して、金額が比較的少額であるとか、不正受給に至るやむをえない事情があった場合等には、懲戒解雇や解雇は行き過ぎで酷だという判断がなされます。
結局のところ懲戒解雇できるのか?
会社が社員を懲戒する(ペナルティーを与える)には、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことが必要であり、その就業規則の内容を、適用を受ける社員に周知させる手続きをとっておくことが必要です。
また、懲戒規定に基づき懲戒処分を行うにあたっては、社員の行った非違行為とそれに対して課せられる懲戒処分がつりあいのとれたものでなければなりません。軽い行為に対し、思い処分とすることは懲戒権行使の濫用となり無効になります。
通勤手当の詐取は、就業規則の服務規律や懲戒規定に違反する場合が多いでしょう。ですが、違反行為があったからといって、必ずしも懲戒処分が有効というわけではなく、前述のとおり行為と処分が均衡していなければなりません。
冒頭の例においても、不正受給が行われてきた期間や事情等も考慮したうえで、処分を決定することになります。当初から詐取する目的で不正に届出をしていたのか、といった事情の有無が問題となります。
詐取といえるほど、きわめて悪質な場合であれば懲戒解雇も可能でしょうが、そうでなければ難しいといえるでしょう。
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ちなみに通勤定期券等の現物支給を行うには、労働組合との労働協約の締結が必要です(←この労働協約は労使協定での代替は認められていません)。
そのため、労働組合のない会社では通勤手当の支払いの代わりに通勤定期券を支給することは、違法となるので注意しましょう。
「なんでうちの会社は通勤定期券を支給してくれないんですか(買いに行くの面倒(T_T))」といった社員さんの声があるかもしれませんが、実はこういうわけがあるのでした。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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