「在職中に知り得たうちのノウハウや機密をよそへ漏洩しないでね」「うちと競合する企業や組織に属したり、自分で会社を作ったりするのはやめてね」
・・・社員が会社を辞める時に口頭で合意をとっているけれど、これって何かあったときにも有効なのかな??(SOHO 人事担当者 談)
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退職時の手続きで、「秘密保持義務」「競業避止義務」について口頭で誓約をとっているものの書面化はしていないので、果たして秘密保持、競業避止義務が成立しているのか、ふと気になる人事担当者さんです。
きちんと書面にして誓約書などを取り交わすべきなのでしょうか?
そこで今回は、秘密保持義務、競業避止義務について会社を辞める社員との口頭での合意は有効なのか、詳しく確認していきたいと思います。
口頭での合意は有効か
秘密保持義務や競業避止義務について、書面での合意が法律上の成立要件とされているわけではありません。
よって理論上は、口頭での合意も法律的には有効として考えられますが、何か問題が起きたときに「言った、言わない」「そんな約束などしていない」「そんなことは忘れた」・・・と合意のあったことがうやむやになりがちです。
口頭だけでは、義務について細やかな内容を合意するのは困難ですし、どのような合意がなされたかが客観的にはっきりしません。
また、退職時に口頭で確認するだけでは、「会社は無防備だな、甘いな」といった印象を与えてしまい、かえって違反行為を誘発してしまうおそれもあります。
そのため秘密保持義務や競業避止義務について、就業規則に規定することに加えて誓約書等を取り交わすことが実務上行われることが多いです。
就業規則による法的拘束力は社員の退職で直ちに失われるものではないと考えられますが、退職後に負う義務の範囲を明確にするため誓約書を交わすとよいでしょう。
実務上どうする?
まず、秘密保持に関する誓約書を作成するとき、その制約の実効性を高めるために対象となる情報の範囲を明確に特定する必要があります。
秘密保持に関する誓約書を取るときは、その旨を就業規則に定め、その提出が会社のルールであることを明らかにしておくことがポイントです。
競業避止義務については、直接的に「職業選択の自由」を制限するので退職者が被る不利益が大きくなる可能性があります。行き過ぎた制約は公序良俗に反して無効となるおそれがありますので、義務の内容を限定したほうがよいでしょう。
そのため、重要な機密情報に関わっていた社員や幹部社員に対しては、秘密保持義務と競業避止義務それぞれの性質に応じた個別の誓約書を定めることが望ましいといえます。
また、競業避止誓約書の提出を退職時に突然求めると戸惑わせてしまい、提出を嫌がる可能性があるため、「退職時に競業避止誓約書を提出する」との旨を就業規則に定めておき、あらかじめ周知しておくことがポイントとなります。
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社員は、一般的には労働契約に基づき、またはこれに付随して信義則上秘密保持義務と競業避止義務を負いますが、その内容を就業規則によって明確にしておくことが大切です。
いざ社員が退職することになってから慌てるのではなく、在職中から社員に注意を喚起し、自覚を持たせることでリスクの回避につながります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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