「足元の業績が好調で、転職したい社員を手厚くサポートできる状況なので、希望退職を募ることになった。もし当初の募集人数よりも応募があったらどうしよう?退職を引き留めればいいのかな?」
中長期的な経営方針で組織の若返りを図ることになり、一定の年齢以上の社員を対象に希望退職をはじめて募集することになったA社さん。
応募者に対して、退職金の割り増しや再就職支援などの優遇措置を考えているため、希望退職をうまく活用してキャリアの伸展を考える社員が予想以上に多かった場合、会社としてどのように対応すればよいのか、判断に悩まれています。
そこで今回は、希望退職で募集人数を超える応募があった場合にとるべき会社の対応について、詳しく確認していきたいと思います。
そもそも希望退職とは
希望退職とは、労働契約を社員本人と会社の双方の合意に基づいて解約するものです。そうであるからこそ、会社の説得や退職条件の優遇がありえますし、社員の自由意思を抑圧しない限り、整理解雇のような厳格な要件を課せられることはありません。
希望退職は、会社の「退職のお誘い」に対する社員側からの労働契約の解約申入れであるので、会社の一方的な意思表示による解雇とは性質が全く異なります。
会社からの希望退職者の募集に対して応募があったとしても、これらはまだ単なる申込者にすぎません。この中から会社が選別を行い、承諾を与えることによってはじめてその社員との間に労働契約の合意解除が成立することになります。
よって、募集人員を超える応募があったとき、会社は退職者を選別することになりますが、恣意的でない限り法律的に問題はありません。
希望退職は、あらかじめ募集人員を定めて超過した応募者の数だけ申し込みを断ることが前提になっている制度であるため、会社側がある程度の選別を行うことはやむを得ないといえます。
実務上どうする?
希望退職への応募者について、超過応募者の数だけ申し込みを拒絶しなければならないとき、会社の選別によって承諾を得られなかった応募者に不満や不公平感が生じるかもしれません。
一度は退職を決意したにも関わらず、会社が無理に引き留めることになるので、働くうえでの意気込みを失った者が社内に残ることになります。周囲に与える影響を考えると(もちろん本人にとっても)、好ましい状況ではありません。
そのため、希望退職の募集要項に下記の旨を明記して、周知しておくことが必要です。
- 先着順であること
- 募集人員の上限があること
- 募集人員に達した時点で募集を終了すること
また、希望退職の募集に際して会社のエース級社員の流出を食い止めるために下記の旨を追加しておくことが望ましいですが、対象者から説明を求められた場合は、経営上の必要性や合理性を説明できなければなりません(恣意的な運用ができるわけではありません)。
- 経営上の必要性がある場合には、希望退職を許可しない場合がある
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希望退職制度と似た制度に早期退職優遇制度があります。両者の違いは下記のようになっています。
- 希望退職制度・・・雇用調整の必要から時限的に退職者を募集する制度
- 早期退職優遇制度・・・恒常的に退職者を募集する制度
ゆえに希望退職制度の骨格は、「応募基準をどうするか(←年齢が多い)」「退職優遇条件をどうするか」という2つの観点から設計されています。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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