今月もノルマの達成が無理そうな部下がいる。チームとしての数字が達成できないと、部下の指導がなっていないと自分の評価が下がってしまう。社会人なんだから仕事は自己責任でしょ。なんで上司がそこまで面倒みなきゃいけないの、法律とかで決まっているの?
(システム会社営業部 リーダー職 35歳 談)
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チームに仕事の遅い人がいて、どうやら煮詰まっている様子のリーダーです。部下をもつと、仕事の指揮監督とともに日常の人材マネジメントが任せられるので、ストレスが溜まるのもわかります。
ただ、上司として自分の法律上の地位や権限、負っている義務について理解していないと、トラブルが生じることもあります。
そこで今回は、なぜ上司が部下を教育・指導しないことが問題になるのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
部下への指導教育が重要なワケ
「会社に入社する」とは、会社と労働契約を結び、その労働契約にもとづいて労働力を会社に提供し、その対価として給与の支払いを受けるという法律関係になった、ということです。
そのため社員は、各種の労働上の義務(たとえば職務専念義務、誠実勤務義務、安全・衛生の遵守など)を負って、会社からの命令や拘束を受けます。
上司(職制の地位にある管理者、監督者)は、これらの義務を社員がきちんと実行するように部下の指揮監督および指導教育義務があります。
というのも、一般的に日本の企業社会では新規学卒者を採用することがほとんどだからです。社会人としての心得や基本的な義務といった、会社組織で勤務するうえでの教育を受けていない人を採用して、企業内で育てていく・・・というのが実態です。
企業内での育成が前提となっているので、上司にとっては部下に対する指導教育が重要な事項となります。
具体的な事例で確認
部下に対する指導教育が、法律的にみてもいかに重要なのかがわかるのは、解雇問題に直面したときです。
会社が解雇するときには、常に所属長などの上司がよく注意し、指導したのかということが問題となります。
繰り返し注意し、根気強く指導したけれども本人が改めない、という事情がない限り、解雇は有効として認められません。
では、具体的に事例をみていきましょう(判例による)。
【事例1:試用期間中の不適格性を理由とする本採用拒否による解雇の正当性が問われるとき】
- 試用期間は、近い将来に会社の社員となって、その企業に貢献するために必要な基本的知識と基本的な労働能力を習得させるという教育機能と、職場での対人的環境への順応性、その職場で労働力を発揮できる資質をもっているかどうかの判定機能をもっている。
- これらの機能を達成させることが試用期間制度の目的である。
- 本採用拒否の裁量権は、まず会社が実施した教育がこの試用期間制度の目的に即して社会的にみて妥当であることを前提としている。
- たとえば、この教育によって簡単に正すことができる言動、くせなどの欠点を何ら正すことなく放置して、それをとらえて解雇事由とすることは許されない。
【事例2:勤務態度不良、勤務成績劣悪などの理由で普通解雇するとき】
- 解雇は、社員にとって生活の基盤を覆すものである。
- 勤務成績や能率が不良ということで解雇する場合には、会社がその是正のための努力をし、それにもかからず、なおその職場から排除しなければ適正な経営秩序が保たれない場合に初めて解雇が許される。
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上司が部下への各種の業務命令を行う法的な根拠は、労働契約にあります(←就業規則に定める労働契約の趣旨・内容がすべての業務命令の根拠)。
冒頭の例でいうと、ノルマの達成が難しいことがわかっているなら、もっと早く手分けしてみんなでフォローする(ノルマの残りの数字のチェック、顧客への提案内容の改善など)よう、業務命令を出せるといいですね。
自分の手柄を一番に考えるより、チームや会社が良い結果になったほうが、最終的にイイ方向に向かう・・・ということがビジネスの世界ではありますよね^^
会社組織(チーム)の仕事なので、みんなでの取り組みを指揮することが部下を持つ人には求められます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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