「仕事が終わった後に、会社が薦めるWEB学習をやっていますが、残業代申請の対象になりますか?何本も教材をこなしたので、結構な時間になるんですけど・・・」
新型コロナウイルス感染症対策のため、対面での研修や教育などが制限されたことをきっかけにWEB学習(eラーニング、オンライン研修)を導入した企業もあるでしょう。
インターネット環境が整っていれば、パソコンやタブレットを用いて時間や場所を問わず学べるのがWEB学習のメリットのひとつですが、会社としては冒頭のような社員からのギモンにきちんと答えられるようにしておきたいものですよね。
そこで今回は、WEB学習は労働時間としてカウントされて終業後の学びの時間は残業代の対象となるのか、詳しく確認していきたいと思います。
自由参加の学びの時間は?
会社が社員教育を行うとき、参加するかどうかが社員の自由であるなら、参加したとしても会社の指示によるものではないので、労働時間にカウントされません。
ですが形式的には自由参加としていても、それに出席しないことについて何らかの不利益が定められている場合には、実質上参加を強制されることになるので労働時間にカウントされます。
(ここで言う「何らかの不利益」とは、出欠の確認をとって不参加の者には欠勤や早退扱いにする、賞与や昇格の査定で自由形式の社員教育への出席状況を査定基準に加える、などが考えられます。)
就業時間外の社員教育の参加についても、「就業規則上の制裁等の不利益扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」との旨が行政解釈にて示されています。
まとめると、完全に自由参加であり出席しないことに何らの不利益も定められておらず、このことが制度的にも実質的にも担保されている場合には、労働時間となりません。
よって、時間外や休日に自由参加の社員教育が実施されても、それは自己啓発のためのものなので(業務命令とはいえない)時間外労働や休日労働には該当しません(←もちろん割増賃金の対象となりません)。
WEB学習の場合はどうなる?
WEB学習は、社員がパソコンを操作して作業すること自体で会社側が利益を得るものではありません(←社員が能力を伸ばすことで、将来的には会社が利潤を得る可能性はあるかもしれない)。
むしろ社員が自分の意思によって(会社の命令ではなく)作業することで、スキルアップを図るものといえます。また、WEB学習の量(教材を何本こなした、など)だけを捉えて社員の評価をすることに意味はありません。
会社がWEB学習を薦めるのは、社員に対して自己啓発のツールを提供して推奨しているだけであって、業務の指示とみることはできません。
よってWEB学習の性質や内容を鑑みると、WEB学習の取り組みを社員による労務の提供とみることはできませんし、業務の一環として実施するよう業務上の指示があるとはいえないので、WEB学習に従事した時間は会社の指揮命令下における労働時間とは認められません(←労働時間にカウントされませんので割増賃金の対象にもなりません)。
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「教材や資料の費用は会社持ちで提供されているのに、WEB学習をやった時間は残業代の対象にならないの?」
参加の自由が担保されていれば、たとえ参加のための教材などの援助をしていても、それは福利厚生的なもの(自己啓発の援助)なのであって、会社の支配下においたことにはならないのでやはり労働時間にはなりません(残業代の対象にもなりません)。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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