「なんでうちは他所みたいに毎年給与が上がらないんですか、違法じゃないですか?」と社員から不満の声。法律的なことも含めてちゃんと説明しないとなあ・・・
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あちこちで賃上げや初任給の額について見聞きすると、「うちの会社はどうなんだろう?」と期待する社員。一方、会社としてはその期待に応えたいものの、経営を続けていくためシビアに判断しなければならないので、社員への説明の仕方に頭を悩ませていて・・・。
定期昇給やベースアップが法律的に義務付けられる場合もありますし、また定期昇給とベースアップは法律的に異なっていますから、法律面を押さえておくことは大切です。
そこで今回は、定期昇給やベースアップは必ず行わないといけないのか、また賞与についても毎年支給しないといけないのか、お金関係をまとめて確認していきたいと思います。
定期昇給やベースアップは毎年やるもの?
会社側が定期昇給やベースアップを法律上義務付けられるのは、就業規則などで具体的な義務を負っている場合です。
たとえば、「毎年4月1日に〇〇号俸昇給させる」「基本給の〇〇%昇給させる」といった金額アップや昇給率などを規定しているときです。
このとき、定期昇給を凍結するには、下記のいずれかのように就業規則を変更して周知する必要があります。
- 「毎年4月1日に〇〇号俸昇給させる」「基本給の〇〇%昇給させる」といった昇給に関する規定を廃止する
- 「第〇条の昇給は当分適用しない」といった付則を加える
なお、単に「毎年4月1日に定期昇給させる」との規定がある場合には、抽象的な義務にとどまります(定期昇給させる義務は会社にあるが、金額までは約束していない)。「定期昇給させることがある」との規定があるにすぎない場合には、努力規定にとどまり抽象的な義務にもなりません。
もちろん、これらは実態がどうなのかによって変わってきますし、団体交渉やベースアップ要求を制限するものではありません。
また、定期昇給とは賃金制度に基づいて制度的に保障されている昇給のことをいい、ベースアップとは賃金制度のなかの賃金表の改訂に基づいた昇給をいいます。法律的に両者は異なっていますが、この2つを区別していない会社も多いと思われます。
賞与は毎年支給しないといけないの?
賞与を支給する義務があるかどうかも、就業規則などの定め方いかんによります。
たとえば「毎年6月と12月に賞与を支給することがある」といった内容にとどまる場合は、法律上の給付請求権は社員に発生しません。
毎年ずっと6月と12月に賞与を支給してきた事実があるといっても、それが不文律として慣行化するかというとそうではありません。
会社の業績がどれだけ悪くても必ず支給するというわけではなく、たまたま好業績が続いたので賞与の支給が継続しただけにすぎない場合は、業績が悪くても賞与請求権を発生させる事実たる慣習(※)としての効力は生じないとされています。
(※民法92条:当事者間で特別の定めをしていない場合、公序良俗に反しない限り、慣習に従って法律行為の内容が解釈され決定される)
そもそも賞与とは、不景気や業績悪化の場合には前年の支給額より少なくなったり、不支給であったりと業績に左右されるもの、というのが一般的な考え方となります。
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「定期昇給はピンとくるけれど、ベースアップはどんなときに行うの?」
会社が社員に同じ額の賃金を支払ったとしても、物価が継続的に上昇すると(インフレ)、賃金の実質額はインフレ分だけ目減りしてしまいます。
会社としては実質額を保障したい、優秀な人材を確保したい、社員の生活を支援したい、などの理由から賃金水準を全体的に底上げするかもしれませんよね、これがベースアップとなります。賃金表を変更する(書き換える)ことによって行われます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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