前の総務部長が退職したので、後任として職務にあたることになった。バタバタの引継ぎだったが、「戸棚の書類をみれば大丈夫」だって。
どれどれ・・・ガチャ。(←キャビネットの扉を開ける音)
はいはい、これが就業規則の原本ね。ん?職場代表の意見を聴いてないし、労基署へ出した形跡もないっっ?!これ絶対ダメなやつ!!
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就業規則はその作成、変更の都度、労基署に届け出なければならない旨が労基法に定められています。
では、就業規則を作成したものの労基署への届け出をサボっていた場合はどうでしょうか。有効なものとして扱われるのでしょうか。
そこで今回は、労基署に届出ていない就業規則はそもそも有効なのか、またあわせて職場代表の意見を聴いていない、社員に周知していないときはどうなのか、について詳しく確認していきたいと思います。
労基署に出していない問題
さっそく、就業規則を作成しながら労基署への届出を怠っている場合、その就業規則は有効なのか問題についてです。
結論からお伝えしますと、就業規則は労基署への届出を効力発生の要件としているのではありません。
つまり、労基署への届け出をサボると行政取締法違反で労基法上の罰則を受ける対象となりますが、それだからといって社員に対する効力をもたないわけではない、ということです。
判例においても下記のような内容で、届出をしていない就業規則の無効を否定しています。
- 労基法第89条には、会社が就業規則を作成しまたはこれを変更した場合には行政官庁に届け出るべき旨が規定されているが、届出手続きを行うことは作成または変更にかかる就業規則の効力発生要件をなすものではない。
- 会社が職場の多数の社員に共通する就業規則を定めて、社員にその存在と内容を周知するのに十分な方法を講じた時は、就業規則として妥当であり、社員を一般的に拘束する効力を持つものと解釈できる
なお、労基法第90条では社員側の意見徴収を規定していますが、これは「社員側との協議決定を求めるものでなく、就業規則について社員側の意見を聴けば労基法違反とはならない」という意味であって、合意は就業規則の効力発生要件となっていません。
周知していない就業規則は有効なの?
労基法第106条では、就業規則を会社側が社員に周知させる義務を定めています。では、労基法第106条の方法による周知を行わなかった就業規則は有効なのでしょうか。
※(注)「労基法第106条の方法による周知」とは、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付すること等の方法によって、社員に周知することです。
これについて、判例では、就業規則は労基法第106条の周知方法を欠いたとしても、社員に何らかの方法で就業規則として周知し、就業規則として適用されている以上は、それが労基法の手続き違反となるにしても、手続き違反だからと言って就業規則としての効力が否定されることにはならないとされています。つまり、会社と社員の間では有効なのです。
なお、就業規則の効力発生要件としての周知方法は、必ずしも労基法第106条の定める周知方法と同一の方法による必要はなく、ケースバイケースで適した方法によって社員一般に知らされていれば有効となります。
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社員側(労働組合や職場代表)が就業規則の改訂に反対して、故意に意見書を出さないような場合はどうすればいいのでしょうか。
このような意見書の提出がない場合でも、意見を聴いたことがはっきりしていれば、それを客観的に証明できる書類をつけて労基署に提出することになります(労基署で受理してもらえますし、就業規則の効力に影響はありません)。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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