「社員の給与を奥さんに支払っちゃダメだと聞きました。奥さんとはいえ他人なのでダメなんですか?」
お金がなくては生活できないので、ちゃんと給与が社員に支払われないと大変なことになってしまいます。
そのため、労基法では賃金の支払いについていろいろな保護規定が定められています。そのひとつに、賃金は直接社員本人に支払わないとダメなことになっています。
とはいえ、やむをえない事情(本人が病気欠勤中、もしくは死亡したなど)があって、会社として「配偶者に支払ってあげたい」というときには、どうすればいいのでしょうか。
そこで今回は、給与の代理受領が禁止されていることを確認しつつ、本人死亡の際に配偶者に支払うことの可否について、詳しく確認していきたいと思います。
社員の代わりに給与を受け取るのはダメ
賃金は直接社員本人に支払わなければならず、代理人に支払うことは違法となります。
たとえ同僚や本人の債権者などに支払ったとしても、そもそもそれは無効なので、本人から「給与を支払ってください」と請求があれば二重払いになるリスクが会社にはあります。
ただし、本人の支配下にあると認められる妻や子が、本人の印鑑を持参し、本人名義で受領した場合には本人の代理人ではなく使者への支払いとして適法となります(←病気欠勤中に妻子が給料の受け取りを求めるようなときはOK)。
ここで使者と代理人の違いを押さえておきましょう。
使者とは、社会一般的に考えて、本人に支払うのと同一の効果を生じるような者(いわば本人の手足の延長、単なる“使い”)のことをいいます。代理人は本人の代わりに行為する者(本人の手足ではない)であり、本人の支配下にあるとはいえない者のことです(←同僚や債権者は代理人にあたります)。
社員が死亡したときにはどうなるの?
社員が死亡または退職した場合、会社は権利者の請求があった場合には、7日以内に賃金を支払い、社員の所有に属していた金品を返還しなければなりません(労基法第23条1項)。
これは、社員の退職時における不当な足止めを防ぎ、社員やその家族の生活を守るために、社員の金品の支払いや返還を迅速に行うことを会社に義務付けたものです。
ここでの権利者とは、社員が退職した場合にはその社員本人であり、社員が死亡した場合にはその社員の遺産相続人をいいます。
社員が死亡した場合の権利者である遺産相続人については、正当な相続人であるかどうかの判定は困難です(会社として即断即決できませんよね)。そのため請求者が正当な相続人であることを証明しない限り、会社は支払いまたは返還を拒否できるものと解釈されています。
もし不注意により正当な相続人ではない者に支払いまたは返還をした場合、後で正当な相続人が請求してきたときには、会社は後に請求した正当な相続人にも支払いまたは返還をしなくてはなりません。
社員が死亡した場合、その配偶者は常に相続人となりますが、その社員に子、直系尊属または兄弟姉妹がいる場合には、それらの人々も相続人となります(ただし、優先順位があります)。
まとめると、社員が死亡した場合には遺産相続人支払うのが原則で、それは配偶者に限定されないので、本人の配偶者から給与全額の支払いを求められたときは、会社としてこういった点に注意する必要があります。
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前述のとおり労基法では、社員本人以外の人に賃金を支払うことを禁止していますが、これは会社側が社員それぞれにじかに給料を手渡さないとダメだ、といっているのではありませんので念のため。
なお、社員の同意があれば銀行等への口座振込払いは可能ですが、本人の希望であっても別人や架空の名義に振り込んだりするのは違法となります。
普段の生活でもお金のやりとりは気を遣うもの。社員の給与となるとなおさらですので、会社として十分に注意しておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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