営業部のBさん、貸金業者への返済が滞っていたようで会社に電話がかかってきた。「給料や退職金を差し押さえる」ってことだったけど、Bさんは社内貸付制度の返済もまだ残っている。会社が貸したお金は返ってくるの?!(゚Д゚;) (メーカー勤務 人事担当者談)
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貸金業者から社員の給料や退職金の差押えを受けてしまった。差押え債権者の方が優先すると、会社が貸したお金は返ってこないんじゃ・・・と不安に襲われる人事担当者さんです。
社員に給料を支払っている会社としては、給料からの天引きによる返済方法をとっていることが多いでしょうから、もしもなんていう事態にもなりかねません。
そこで今回は、社員の給料が差押えを受けたとき、会社が社員に貸したお金はどうなるのか、また、返済を受けるために会社が注意しておくべき点について詳しく確認していきたいと思います。
会社が返済を受けるためにすべきこと
社員に給料を支払う会社としては、社員の給料をいわば担保として社員にお金を貸し付けているので、もし差押え債権者のほうが優先すると、会社は貸付金の返済を受けられないのに、まったくの第三者である貸金業者に差押え部分の給料を支払う・・・というおかしな話になってしまいます。
こんな理不尽な事態を避けるには、どうしたらよいのでしょうか。それには次の2点を押さえておくことが必要となります。
- 社員の自由意思による書面合意をしておく(万が一、給料の差押えを受けたときには、社員は会社に対し期限の利益〈一定の期限が到来するまで支払いをしなくてもよい〉を失い全額一括返済義務を負い、直ちに給料・退職金で相殺して支払う・・・といった旨を定めておく)
- 労使協定(賃金控除協定:届出不要)において貸付金の返済に関する項目を設けておく(給料・退職金から貸付金の返済分を控除するということ)
事前の対応がポイントです
給料と会社による貸付金の相殺について、判例は次のような旨を示しています。
- 社員の自由な意思に基づいて給料と貸付金の相殺に同意した場合において、その同意が社員の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同意を得てなされた相殺は労基法第24条(賃金支払いの5原則)の規定に違反するものとはいえないと解釈される。
- (労基法第24条:賃金支払いの5原則の)全額払いの原則の趣旨をかんがみると、その同意が社員の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならない
また別の判例では、退職金から貸付金を控除することが貸付時の条件をなっていて、お金を借りる側である社員がこの条件を承諾しているときは、退職金からの貸付金の返済は本人の自由意思によりなされたものとみるべき、との旨を示しています。
このため、「貸付金契約書」「社内住宅融資制度申請書」といった、書面による定めが必要となります。それがないと、一括返済や相殺の合意の立証ができず、貸付金の相殺よりも貸金業者などの債権者の差押えが優先してしまうことがあります。
きちんとした手続きがとられていないために、後日トラブルとなることは避けたいですよね。事前の対応をとっておくことがポイントとなります。
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法定外の福利厚生(住宅関連、医療保険、生活援助など)は、これまで生活上のニーズに合わせたサービスを「社員のみんなに平等に」提供することが重視されてきました。
ですが、いまでは法定外福利厚生も会社に対する貢献度によって決めるべき、という考え方が強まってきています。
会社としてあれもこれもとはいきませんし、社員の価値観、ニーズも様々ですから、法定外福利厚生のこれからのあり方を考えることが必要でしょう。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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