「口約束であっても採用は成立する、と聞いたのですが、じゃあ、電話で簡単な面接のやりとりをして、顔を合わさないまま採用することもできるのですか?」
はい。
・・・このままだとシンプルに終わってしまうので、もう少し詳しく続けましょう。
採用が決定したということは、労働契約が成立したということです。労働契約は基本的に当事者の合意のみで成立するので、口約束だけでも成り立ちます。
ですが、それだけですとあとあと「言った、言わない」「思っていたのと違う」などと、トラブルに発展しがちなのは想像に難くありません。会社側には事前の対策が必要です。
そこで今回は、そもそも採用とは具体的にどういうことなのか、また会社があらかじめ注意しておきたい点について詳しく確認していきたいと思います。
そもそも採用ってどんなこと?
「採用」とは、社員を雇い入れることです。法律的にいえば「雇用」となります。雇用は、労働契約を結ぶという法律行為であり、「採用が決定した」ということは「労働契約が成立した」ということです。
法律では、労働契約について「社員が会社に雇用されて働き、会社がこのことに対して給料を支払うことについて社員と会社が合意することによって成立する」との旨が定められています(労契法第6条)。
この合意だけで労働契約の効力が発生するので、どこかへ届出や登録が必要だとかいうわけではありません。
たとえば、極端かもしれませんが、次のような例でも労働契約は成立します。
- 子育てママが新聞の折り込みチラシで、近所のショッピングセンターでちょうど自分の都合のいい時間帯でのパート社員を募集していることを発見。
- 働く気マンマンでさっそくそのお店に電話してみると、「人手が足りないので明日からきてください。時給は募集チラシのとおり、1時間1,000円です」とのこと。
- すぐさま「わかりました!」と返答した。
もしこの例で、次の日(出勤初日)の朝、歩いて通勤しているときに自転車と衝突したとしたら、労災保険の対象となるでしょうか。答えはもちろんYESです。前日に電話で労働契約が成立した社員が通勤災害に遭った、ということで労災保険から給付を受けることができます。
会社が気をつけておきたい点
前段でお伝えした例のように、たとえ電話であっても雇用の申し込み(「明日からきてください」)と承諾(「わかりました」)の合意があったことになります。つまり、対面していなくても(顔を知らなくても)労働契約は成立するということです。
とはいえ、採用時に書面で労働条件を提示しなかったことによって、のちにトラブルに発展することは大いに考えられます。
そのため、労働条件上のトラブルを避けるため、労基法で労働条件の書面交付による明示が会社側(雇い主)側に義務付けられています。
特に書面で示さなければならない事項については、適切な対応をしておかないと明らかに法律違反となりますから注意が必要です。
なお、2019年4月からは、社員が希望した場合は、下記のような方法で明示することができるようになりました。ただし、出⼒して書面を作成できるものに限られます。社員の個人的な事情によらず(たとえばその社員がプリンターを自宅に持ち合わせていないなど)、一般的に出⼒可能な状態であれば、出⼒して書面を作成できると認められます。
- FAX
- Eメールや、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービス
- LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能 等
※第三者に閲覧させることを目的としている社員のブログや個人のホームページへの書き込みによる明示は認められません。
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採用において、法律で定められた労働条件を明示することはもちろんですが、会社や仕事に関してプラス面だけでなく、マイナスと考えられる情報についても求職者に提示するほうが、採用後の社員の定着率や仕事や会社に対する満足度は高いとされています。
採用広告などで具体的に仕事内容を説明する時は、業界の知識がない人や学生でも理解できるように専門用語を使わずに、わかりやすい表現を心がけたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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