「減給をもって社員を懲戒処分するとき、降格処分なら労基法が制限している“減給の制裁”については考えなくていいですか?」
減給については労基法91条で厳しく制約されていて、1回の懲戒事由では平均賃金の半日分以内、総額にしても一賃金計算期間で1割以内しか減給することはできません。
(減給の額があまりに多額となって、社員の日々の暮らしを脅かすことになってはいけないので、減給の上限が決められています。)
そのため冒頭のようなご相談をいただくこともあるのですが、結論から申し上げますと、降格処分しても、まったく今までと同じ仕事をさせながら給料のみをマイナスするのはダメです。
そこで今回は、降格処分と労基法が規定する「減給制裁の制限」との関係について詳しく確認していきたいと思います。
こんな降格処分は違反です
冒頭でお伝えしたように、降格処分をしても従前と同一の職務に就かせながら、賃金のみをカットするような場合は、労基法の定める「減給制裁の制限」に違反します。
たとえば次の2つのようなケースは問題となります。
【ケース1】
- 「課長→課長代理」の降格処分となった
- 仕事内容は今までと全く同じもの(課長代理の仕事ではなく課長の仕事をしている)
- 賃金は課長代理の賃金にカット
【ケース2】
- 「資格等級3級→2級」の降格処分になった
- 今までと同じ職場で、同じ職責のある、同じ仕事をしている(2級の仕事ではなく3級の仕事をしている)
- 賃金は資格等級2級の賃金にカット
もちろん、本人の勤務態度、今までの実績、部下に対するマネジメント力などをみて、「そのポジションにふさわしくない」と判断する場合には、権限と責任の範囲を狭めたり、もしくは権限と責任を持たせない、などとすることは、会社の有する人事権の自由です。(←こういった意味での降格には問題ありません。)
ただし、人事権の行使といえども前述のようなケースはダメで、行政通達では「降格処分が、従前の職務に従事させながら、賃金額のみを減じる趣旨なのであれば、減給の制裁として労基法91条の適用がある」との旨が示されています。
降格処分が適法となるには
懲戒としての降格処分を適法に行うには、降格処分として職務も変更し、降格に伴って賃金が減少するものでなければなりません。
このことについて、行政通達では次のような旨を示しています。
- 会社が、交通事故を起こした自動車運転手をペナルティーとして助手に降格し、助手としての賃金に減給したとしても、「交通事故を起こしたことが運転手として不適格なので、助手に降格させた」ということなのであれば、賃金の低下はその社員の職務の変更に伴う当然の結果であり、労基法91条の制裁規定の制限に抵触しない
- 職務ごとに異なった基準の賃金が支給される場合、職務替えによって賃金支給額が減少しても労基法91条に抵触しない
まとめると、降格処分しても職務上の権限と責任が同じで、単に賃金を減額するための手段にすぎないような場合には、脱法行為となるおそれがありますから注意が必要です。
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なお、ちょっとややこしくなるかもしれませんが、就業規則のなかに「懲戒処分を受けた場合には昇給させない」という昇給の欠格条項を定めても、労基法91条の減給の制裁には該当しません。
というのも、「減給」と「昇給停止」は次のように考えられているからです。
- 減給→仕事をして賃金請求権が発生している(賃金がいったん発生した)ものをカットする
- 昇給停止→将来における労働の対価アップをストップする
つまり、労基法では「すでに提供した結果としての労務の対価を減少させる」のを制限している(将来のことについては制限していない)、ということになります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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