「給与を3つの口座に分けて振り込んでほしい」と社員からの依頼。マイホーム購入に向けてうまくお金を貯めたいそうだけど、法律的に会社は聞き入れないとといけないの('◇')ゞ? (給与担当者 談)
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ミス防止のためややこしい事務手続きは極力避けたい給与担当者。事務処理の効率化を第一に考えたいからです。
このように給与の振込先の取扱いは、地味なようで、実は会社の担当者が対応に悩まされる問題のひとつでしょう。
たとえ事務処理が煩雑になろうとも、個々の社員の希望を会社として聞き入れないとダメなのでしょうか。
そこで今回は、貯金したい社員の希望通りに会社は3つの口座に分けて給与振り込みを行うべきなのか、詳しく確認していきたいと思います。
給与の振り込みにまつわる法律のハナシ
社員に給与を支払うとき、会社には「通貨でかつ全額を支払う」義務があります(通貨払いの原則、全額払いの原則といいます)。
社長みずから現金の入った給与袋を「今月もご苦労さま」と声をかけながら、社員に直接手渡す・・・といった光景が、かつてはみられたと思いますが、事務の効率面やセキュリティー面から、現在では銀行振込による方法をとられることがほとんどでしょう。
そこで、次の要件のもと金融機関の口座への賃金の支払いが例外的に認められています。
- 労働者の同意を得ること
- 労働者が指定する銀行その他の金融機関の本人名義の預貯金口座に振り込むこと
毎月の給与の振込先(金融機関)の指定は、あくまで社員が行うことになりますが、ここでいう社員の同意については、社員の意思に基づくものであれば、その形式は問わない(口頭でもよい)とされています。
書面によって振込先をヒアリングする場合が多いでしょうから、書面に社員が振込先を記入したことをもって社員の同意を得た、とするケースが実際には多いと思います。
複数の口座に分けて給与を振り込むべきか
前段でお伝えしたように、社員が指定する口座に振り込むことが会社に義務付けされている、というわけではなく、あくまで口座振込の方法をとることができる、ということです。
よって、複数の口座に分けて給与を振り込む必要性は会社にはありません。ひとりにつき複数の口座に給与を振り込むとなると、手数料もかさみますし、事務手続きのボリュームも増すことになります。逆に、ひとりにつき1つの口座に限定することを考えてもよいくらいでしょう。
冒頭の例でいうと、会社として「社員のマイホーム購入の夢を応援してあげたい」との気持ちもあるかもしれませんが、ひとりに対してこの方法をとると、他にも希望者が出てくるかもしれません。そうなると、やはり事務手続きが煩雑になるおそれがあります。
会社として事務管理のミスは可能な限り避けなければなりませんから、ある程度の割り切りも必要ではないでしょうか。
複数の口座に給与振込を希望する社員さんには、ひとりにつき1つの口座に限定することを説明して、理解を求めたいところですね。
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給与の振込先に限らず、いろいろな事務手続きについて社員さんから相談や要望が、会社(担当者)には日常的にたくさん寄せられることでしょう。
会社として大切なのは、まず社員さんに不利益を与えることのないよう法律面を確認すること、そして「割り切り」と「事務負担」とのバランスを考えて、実務上どちらを採用するかを決めることだと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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