新幹線や在来線を使う地方への出張が社員から敬遠されがちだ。日帰り出張では帰宅時間が遅くなるのに残業代も出ない、と不満を耳にする。訪問先の都合で時刻指定で乗車してもらうこともあるので、移動も労働時間としてカウントするべきなのだろうか・・・
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交通機関に乗っている時間を労働時間としてカウントするのか?問題です。出張で遅い時間に帰ってくるのに、残業代を出さなくていいのだろうか・・・と後ろめたく思われる上司や人事担当の方もいらっしゃるようです。
出張の疲れによる愚痴を聞くと、どうしてもそう感じてしまうのが人情というものですよね。ですが、まず大切なのは労基法上ではどのように取り扱うのか?について正確に把握することです。
そこで今回は、出張中において単に交通機関に乗っているだけの時間は労働時間としてカウントされるのか、確認していきたいと思います。
交通機関での移動時間はどうなる?
出張で仕事の目的地に足を運ぶには、当然のことながら新幹線やバス、飛行機などを利用することになります。
そこで、交通機関に単に乗っているだけの時間が労働時間としてカウントされるのか、という問題があります。冒頭の質問内容にもあるように、特に会社が乗車の時刻指定を行う場合には疑問が浮かんでくるかもしれません。
結論からお伝えすると、この交通機関での単なる移動時間は、たしかに拘束時間ではあるけれども、「業務に従事していない休憩時間と同じような時間」として解釈されています。
この時間は乗り物から降りて自由に行動できず、目的地まで拘束されている時間ではありますが、その到着までの間は、昼寝をしていても、お弁当を食べていても、スマホで動画を視聴していても全くの自由です。
「移動時間はこれこれこうしておきなさい」と会社から別段の指示がなされていない時間なので、いわば外出が制限された職場内の休憩時間と同じシチュエーションです。よって、労働時間ではなく、「休憩時間と同じような時間」と解釈するのがもっともだといえます。
(同じように、長距離トラック運転手がフェリーに乗船中の時間は休憩時間とされています)
実務上の取扱い
前段でお伝えしたように、交通機関に単に乗っているだけの時間は労働時間に該当しないので、出張中は原則として事業場外労働の「みなし時間」にあたるということになります。
つまり、出張先で仕事が終わってから新幹線に乗車し、深夜に帰着したとしても時間外労働にはなりません。繰り返しになりますが、出張中の移動時間については実労働時間にはあたらないので、残業代が支払われなくても違法ではありません。
なお、会社の敷地内での休憩時間中において施設などに起因する災害が業務上となるように、出張中の交通災害なども業務上災害となります。
また、このような出張による交通機関の利用の場合には、拘束時間が長くなるのが通常です。そのため、職務負担の慰労や拘束の対価としての手当(出張手当、日当など)の支給を行っている企業もみられます。
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以上をまとめると、出張には移動時間が多く含まれるので、労働時間の把握が難しい場合が多いため、原則として、事業場外の労働にかかるみなし労働時間制を適用することになります。
「深夜の帰宅でも残業代が出ないなんて」という嘆きに引きずられずに、その根拠をわかりやすく説明できるようにしておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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