「自分の生活スタイルを崩したくない、と変形労働時間制はイヤだという社員がいます。プライベートに対して強く言えず、これを認めるべきでしょうか?」
感染症対策と経済活動の両立を図るため、法定労働時間の柔軟な枠組みをめざす変形労働時間制を職場に導入するケースもあるでしょう。業務の繁閑にあわせて労働時間の効率的な配分を行い、全体として労働時間を短縮することができるからです。
そんな会社側の思いとは裏腹に変形労働時間制で働きたくない社員が。対応に戸惑ってしまいますよね。その理由を真摯に聞けば聞くほど、「会社として何か配慮が必要なのか?」と悩まれるようです。
そこで今回は、変形労働時間制で働きたくない社員を会社は認めないといけないのか、その対応について詳しく確認していきたいと思います。
社員には変形労働時間制で働く義務がある
変形労働時間制には、次の4種類があります。
- 1箇月単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
これらは労基法上の労働時間制度ですから、職場で法定の要件をクリアしたうえで導入した場合、変形勤務を命じられた社員がこれを拒否できるかというと、答えはノーです。「変形労働時間の勤務はさせない」旨の限定的な特約で採用された場合は別ですが、通常のとおり採用された社員については、原則として拒否することはできません。
なぜなら、日本の労働契約は、勤務場所、従事する業務、勤務内容などについて具体的に特別な約束をせずに、それらの決定や変更の権限を会社側にゆだねる包括的な契約を結ぶことが一般的だからです。
そのため、権利の濫用にならない限りは、このような勤務の変更に社員は応じなければなりませんし、会社側が変形労働時間制のシステムに社員を組み込むことは、「(会社の)業務命令権の行使」として考えられています。
この会社の権限を明らかにするため、就業規則で「会社は業務上の必要のため勤務の設定・変更ができ、社員は正当な理由のない限りこれに従わなければならない」との旨を定めておくと、「嫌なら拒否できるかも」といった社員のいらぬ誤解を払拭できるでしょう。
会社側の権利濫用はダメ
変形労働時間制の導入によって、一定期間の労働時間は短縮されるといえども、それと引き換えに1日あたりの労働時間が長くなる日もあります。社員の生活に、著しい不便や不利益をかける場合も考えられます。
正当な理由があって、社員が変形労働時間制の勤務につけないこともあるかもしれません。その場合には、会社としても変形勤務を強制することは差し控えるべきでしょう。
なお、1箇月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制によって、下記に挙げる社員を働かせる場合には注意が必要です。
- 育児を行う社員
- 老人等の介護を行う社員
- 職業訓練又は教育を受ける社員
- その他特別の配慮を要する社員
会社が業務命令権限を濫用することのないよう、これらの社員には育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならないことが、労基法で定められています(フレックスタイム制では時間の融通が利くので配慮義務はありません)。
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上記のほかにも、下記のように変形労働時間制についての制限があります。ついうっかり忘れがちですので留意してくださいね。
【年少者(満18歳未満】
次の変形労働時間制を適用するのはダメ
・1箇月単位の変形労働時間制
・フレックスタイム制
・1年単位の変形労働時間制
・1週間単位の非定型的変形労働時間制
【年少者(満15歳の年度末~満18歳になるまで】
フレックスタイム制を適用するのはダメ
【妊産婦(妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性】
妊産婦が会社に請求した場合、下記の変形労働時間制をとっていたとしても、妊産婦を1日または1週間の法定労働時間を超えて働かせるのはダメ(フレックスタイム制は時間の自由がきくのでOK)
・1箇月単位の変形労働時間制
・1年単位の変形労働時間制
・1週間単位の非定型的変形労働時間制
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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