うちの就業規則をみると、「社員に出向を命じることがある」と書いてあるものの具体的な内容は載っていない。いざというときのため具体的に細かく規定化しておいたほうがいいよなあ。出向規程をつくったほうがいいのかな? (メーカー勤務 人事担当者談)
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就業規則(本則)に社員の出向命令に応じる義務のみを定め、別規程として出向規程を設け、出向における労働条件を定める方法があります。
出向(在籍出向)では出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立しします。そのため、出向元・出向先・出向社員での三者間の取り決めによる権限と責任に応じて、出向元・出向先のそれぞれが使用者としての責任を負います。
そこで今回は、会社(出向元)として考えておくべき出向規程の内容のポイントについて詳しく確認していきたいと思います。
出向規程を作る前に気を付けておくこと
出向元企業から出向先企業に社員を出向させるためには、出向元企業と出向先企業との間に、出向先企業が出向社員を受け入れることについて、合意(契約)のあることが前提です。
この契約では、通常は下記のような内容について取り決めることになります。
- 出向先企業が出向社員を受け入れる場合の賃金、退職金、社会保険・労働保険の負担割合
- 年休、残業(時間外労働)の取扱い
- 出向社員の復帰の条件
- 懲戒の取扱い
- 出向先での出向者の処遇(労働条件)
- 出向により想定されるさまざまな問題への対応
よって、出向元企業で出向規程を作成する際には、出向元・出向先企業間の契約によって定められた内容と矛盾したり、違反したりすることのないように注意が必要です。
出向規程に定めておくべき内容
それでは、出向(国内での在籍出向)において、定められていることが一般的に多い規定の内容について確認していきましょう。
(1)目的:就業規則における出向の根拠となる条文を引用し、国内出向に関する規定であることを明記します。「出向とはどういうことか?」を定義する場合もあります。
(2)出向期間:原則(たとえば3年など)と例外(必要に応じて延長または短縮されること)を規定します。
(3)出向期間中の出向元での所属:出向社員は出向中も出向元に在籍しています。その間どの部署に所属するのか(たとえば総務部付けなど)、または休職扱いにするのかを規定します。休職扱いにする場合には、休職期間は出向元での勤続年数に通算する旨を規定しておくと、出向社員の安心につながるでしょう。
(4)お金関係(給与・賞与・退職金・昇給):出向元と出向先では、給与・賞与に差があることも多いです。そのため、差額の補償や支払い方法について定めます。退職金については、出向元の退職金規定によるものとし、出向先から支払いを受けたときは、その差額を差し引き控除するのが一般的です。出向先が負担する場合には、その計算方法を定めます。昇給については、通常は出向元と同様の取扱いにします。
(5)就業規則(労働条件):服務規律、労働時間、休暇などの条件については、出向先の就業規則によるのが一般的です。とはいえ、出向元と出向先では取扱いに大きな差のある項目(特に年休など)については、出向元の扱いを適用する場合もあります。
(6)復帰:出向期間の終了を迎えると復帰するのが原則です。出向が復帰を前提にしていること、復帰後の出向元での処遇について定めておくと、出向社員の不安解消につながります。
(7)社会保険・労働保険:労災保険を除いて、出向元の社会保険・労働保険を継続することが多いですが、明確にする目的で規定します。気がかりな出向社員も多いようです。
(8)その他:福利厚生面などで出向元・出向先の間でかなりの差異があるとき、その取扱いについて定めます。
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出向先では、たとえば(出向元では行われていない)土曜出勤や早朝出勤がある、といったこともありえます。こういった格差をひとまとめにして、是正のため「出向手当」として金銭的補償を行うケースが多いようです。
出向社員の不安を解消するためにも、納得できるような措置と誠実な説明を心がけたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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