いきなりですが、あなたは次の問題に答えることができますか?(〇か×で答えてみてください。レッツチャレンジ!)
Q1「社員が業務命令に逆らって物損事故を起こした場合、会社は生じた損害の賠償を社員に請求してもいい」
Q2「あらかじめ “事故1回1万円”と決めておいて社員に請求してもいい」
Q3「会社が負担した海外留学費用を、帰国後5年以内に自己都合で退職した場合は留学費用を全額返還するよう決めて、社員に請求してもいい」
いかがでしたでしょうか?このQ1からQ3の内容は、実はコンサルティングのなかでよくいただくご質問内容だったりします。
これらの共通事項をまとめると、「労働契約の不履行等に対して損害賠償額を定めたり、罰金や違約金を徴収してもよいのか?」ということです。
では、さっそく詳しく確認していきましょう。(Q1からQ3の解答は記事の最後に!)
損害賠償や罰金は求めてもいいの?
業務命令や就業規則で定めたことに対する社員の違反行為について、会社が罰金制度を設けて徴収することは、労基法第16条による「労働契約の不履行の違約金」や「損害賠償額の予定」の禁止にあたります。
労働契約の不履行などに対して損害賠償額を定めることは、社員の自由意思を不当に拘束し、社員の足止め策として利用される懸念があるため、これを防止するために定められたものです。
よってたとえば、あらかじめ物損事故などについて「物損1回1万円」というように金額を決めて罰金制度をとることは、労基法第16条に抵触する問題が生じるでしょう。
ですが、社員が業務命令違反や過失によって会社に損害を与えた場合に、現実に生じた損害について賠償を請求すること自体は禁止されていません。(実際の裁判においては、社員の違反事由と賠償金額についてある程度の制限があります。横領など故意の場合を除いて、全額の賠償が認められるとは限りません。)
なお混同されやすい例として、遅刻や早退について、その時間に比例することなく「1回につきいくら」と決めて行われる一律の賃金の減額があります。これは、あくまでペナルティー(懲戒処分)としての対応であり、減給制裁の範囲(減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払い期における賃金総額の10分の1を超えてはダメ)なら可能だといえます。
海外留学費用の返還は求めてもいいの?
会社が費用を支給して社員を海外留学させたが、帰国すると自己都合で退職(他社へ転職)してしまった・・・こんな場合は留学費用を当人から全額返還してもらう旨を規程に定めておこう・・・
このように、海外留学後の勤続義務違反という「会社に勤めるにあたっての条件の違約だから返しなさい」というのは、まさに労基法第16条の禁止する違約金の定めとなります。帰国後に自己都合で退職した場合に、留学費用の全額返金を定めた規程は無効となります。
ただし、(その会社独自に設けた)留学費用の貸与制度に基づいて、貸与を受けた社員に対して「貸付金を返しなさい」というのは労基法上問題ありません。
その貸与制度が一定期間の勤務によって返還を免除されるというものだったとしても、それは「一定期間の勤務をすれば(留学費用返還の)債務は免除されるけれど、特別な理由なく早期退職する場合には留学費用を返還しなければならない、という特約が付いているにすぎない」として、考えられるからです。留学費用の返還義務は労働契約の不履行によって生じるものではないので、労基法第16条が禁止する違約金の定め、損額賠償額の予定には該当しないことになります。
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【冒頭の設問の回答】
Q1「社員が業務命令に逆らって物損事故を起こした場合、会社は生じた損害の賠償を社員に請求してもいい」→〇
Q2「あらかじめ “事故1回1万円”と決めておいて社員に請求してもいい」→×
Q3「会社が負担した海外留学費用を、帰国後5年以内に自己都合で退職した場合は留学費用を全額返還するよう決めて、社員に請求してもいい」→×
混同しやすい問題だと思いますので、ぜひ確認の機会にしていただければと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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