営業部では社用車で取引先を訪問している。1日の予定が終えて会社に戻り、日報を作成して上司に報告するのが日課だ。営業社員はみなし労働時間制の対象だが、この状況では労働時間をカウントできるのでは?
・・・もしかすると、みなし制の適用外じゃないの?
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オフィス外での仕事では、何時から何時までが休憩時間なのか、手待ち時間なのか、と具体的には把握できません。
そのため事業場外での仕事であって、実労働時間がつかめない場合には、会社からあらかじめ別段の指示がない限り、「通常の労働時間働いたものとみなして処理する」というみなし制が認められています。
ですが、営業社員のタイムマネジメントで判断に迷うことは多いもの。
そこで今回は、社用車の営業活動や営業結果の報告の義務付けがみなし労働時間制の対象になるのか、詳しく確認していきたいと思います。
営業報告の義務付けはどうなる?
営業社員が自分の1日の活動を振り返り、成長につなげるためのツールとして、営業日報を活用している企業は多いでしょう。当日の取引先での交渉内容、その結果等について上司に報告させるとともに、翌日の営業戦略を工夫させるのが目的です。
ただ、このように当日の報告を義務付け、上司が部下の帰社を待っているような場合、労働時間の算定が可能だということで、みなし労働時間制の適用を受けないのではないか?という疑問が生じます。
この点について、当日の営業結果について報告を義務付ける場合でも、下記のようなケースにおいては、労働時間等の指示は含まないとして考えられています。
- どこを訪問するか、訪問先での取引・交渉内容、訪問時刻等について上司が具体的な指示を事前に行っていない
- 帰社時刻その他労働時間の指示を行わず、営業社員の自由裁量にゆだねている
- 当日の業務の実施結果のみを報告させている(それを受けて所要の業務上の指示のみ行っている)
つまり、これらのように実施方法や時間配分などについて、営業社員の裁量にゆだねられているときには、(オフィスに報告のため帰社しても)なおも事業場外労働の自己裁量性を保っていることになります。
そこで、このようなケースについては、会社(上司)からの特別な指示や具体的な拘束性はないので、「実労働時間を算定しがたい事業場外の業務」に該当します。よってみなし規定の適用を受けるものとして解釈されています。
会社の営業車を使っての営業活動はどうなる?
では次に、会社の営業車を運転して取引先などへの営業活動に従事するとき、「営業車を運転すること」自体も仕事のうちだとしたら、会社を出てから戻るまでのすべての時間が労働時間にカウントされることになるのでしょうか?
この点について、ポイントとなるのはその業務の自由裁量性と断続性です。つまり、外回りの営業活動の業務内容そのものが本人の自由裁量によるものであり、かつ訪問先での手待ち、休憩、面談の時間等が特定されておらず断続的なものであれば、事業場外労働として「みなし規定」が適用されることになります。
このような状況下にあるからこそ、実労働時間を算定するのが難しいからです。
たとえば配達員や運転手のように、自動車の運転自体が業務の目的(荷物、乗客の運搬等)ではなく、外回り営業活動(事業場外労働)における利便性のために、交通機関を使う代わりに会社の営業車で移動することになっているのであれば、会社の直接的かつ具体的な指揮監督下にはありません。よって、「労働時間を算定しがたいとき」にあたると解釈されています。
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いまは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、多くの企業で対面での接点は減っているかもしれません。
お客様と対面で会える機会が少なくなったからこそ、「年末年始の挨拶だけでもちゃんとご挨拶したい」と、これから外回り営業のスケジュールをたてることもあるのではないでしょうか。
年末年始の営業活動に向けて、営業社員の労働時間マネジメントについて、この記事がいま一度確認の機会になればと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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