当社の社員を関連会社に出向させていたが、当人が出向先企業で経理関係書類を不正操作していたことが判明した。横領の発覚で懲戒処分モノとはいえ、これはあくまでも出向先で起きた事案。出向元のうちは、懲戒処分の決定に関与できないのだろうか・・・(経理部課長 談)
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「懲戒処分を行うのは出向元の当社なのか、それとも出向先の関連会社なのか?」両社間での協議はうまくまとまらず、悩みが深くなる課長さんです。
出向社員は出向元企業の社員であると同時に出向先の社員でもあるため、出向社員に対する懲戒について判断に困惑するのはよくあること。
そこで今回は、出向先での違反行為に対する懲戒処分に会社(出向元・出向先とも)はどのように対応すべきなのか、詳しく確認していきたいと思います。
懲戒解雇できるのはどっち?
在籍出向において、出向社員は出向元企業との間に労働契約関係があるまま、出向先企業との部分的な労働契約関係を持つことになります。つまり、ふたつの労働契約関係が併存するということです。
出向社員は、出向先企業における指揮命令やマネジメントに従って、実際の労務提供を行います。したがって、原則として、労務提供に関する部分については、出向先企業の就業規則が適用されます(具体的には、始業・終業時刻、労働時間、休日、休暇、安全衛生、災害補償など)。
これに対して、出向社員の労務提供を前提としない、労働契約上の地位に関するものについては、出向元企業の就業規則が適用されます(具体的には、定年、退職金、解雇など)。
これらのことから、出向先企業は、労務提供にまつわる出向社員の違反行為(服務規律違反)に対して懲戒処分できることがわかります(出向先企業の就業規則に懲戒規定のあることが前提です)。
通常、就業規則に定められる懲戒処分の種類としては、けん責、減給、出勤停止、降職・降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。ただ、前述のように出向元との労働契約を解消させる解雇(労働契約上の地位に関すること)の権限は出向元企業にあります。
よって、たとえ出向社員の違反行為が出向先企業の就業規則に照らし合わせて懲戒解雇に該当するとしても、出向先企業は出向社員を懲戒解雇することはできません。
つまり、出向先企業は出向社員の違反行為に対して行使できる懲戒の種類は、諭旨解雇、懲戒解雇以外のものに限定されることになります。
出向元企業の秩序は乱されていないが
懲戒処分とは、「企業秩序の違反に対して会社によって課せられる制裁罰のこと」として考えられています。
ただ、出向社員が違反行為をしたとしても、被害を受けたのは出向先企業であって、出向元は実際の被害を受けていません。
そのため、出向元企業の秩序が乱されていないのに、懲戒処分を行ってもいいのか?との疑問を持たれる場合も多いようです。
この点について、出向先での勤務態度は実質的には出向元での勤務態度と同じもののようにみなして評価することができると考えられています。なぜなら在籍出向では、出向後も出向社員と出向元との雇用関係は引き続き存続しているからです。
これまでをまとめると、出向社員の出向先での違反行為に対して、出向元企業は(出向元企業の)就業規則における懲戒規定を適用して、懲戒解雇を含む懲戒処分を行うことができます。出向先企業は、服務規律違反として(出向先企業の)就業規則上の懲戒規定を適用できるとしても、出向社員を懲戒解雇することはできません。
なお、出向元企業が懲戒解雇を行う場合には、出向先企業との出向契約を解除して出向元企業に復帰させたうえで懲戒解雇することになります。
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一般的に、自分の処遇に不満をもつ社員は一定数いて、その不満の表明先は上司が多いとして考えられています。
ただ、出向社員の場合、出向元企業とは物理的な距離もあって、直接顔を会わせて言葉を交わす機会が少なくなります。
個別の不満や苦情が表明されずに潜在化していると、思ってもみなかった離職や違反行為につながりかねません。
不満を表明しやすくする(コミュニケーションの機会を定期的にとる、など)ことで、潜在化している不満を顕在化できるように努めたいですね。
人間的な深いコミュニケーションがトラブルの芽を摘み、社員のチカラを発揮させることにつながると思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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