「新婚の社員が、地方支社への転勤命令を嫌がっています。配偶者は仕事の都合で一緒に行けないそうで、単身赴任をしたくないとのこと。会社は夫婦間のことまで考えないといけないの?」
今では夫婦共働きは珍しいことではなく、仕事の都合、こどもの教育、家の管理などのため、家族と別居して単身赴任せざるを得ない場合も十分ありうることです。
とはいえ会社側としては、「夫婦が別居せざるを得ない転勤命令が、人事権の濫用とみなされないか(転勤命令が無効にならないか)?」ということが、最も気にかかるところではないでしょうか。
そこで今回は、単身赴任をしたくないとの理由による転勤命令の拒否は果たして認められるのか(夫婦別居となる転勤命令は人事権の濫用となるのか)、会社のとるべき対応について確認していきたいと思います。
単身赴任が転勤命令拒否の理由になる?
社員には、私生活のことについて会社に何かを報告したり、相談したりする義務はありません。つまり、会社は社員のプライベートに立ち入ることはできないのです。
そのため、社員が家庭の事情を会社に申し出て、会社の同意を得ない限り、プライベートを理由にして(冒頭の例でいうと「新婚であり夫婦共働きである」こと)、転勤命令を拒否することはできません。
逆にこれを認めてしまうと、扶養家族を持つ社員、夫婦共稼ぎの社員とそうでない社員との間に不公平が生じてしまいます。また、世間において単身赴任が特に異常な状態とは考えられないことから、予想外の著しい損害を社員が被るとは考えにくいでしょう。
同じ企業内における共稼ぎの場合について、次のような内容が示された裁判例があり、転勤命令が業務上必要なことであれば、単身赴任が労働契約上受け入れなければならない範囲のものであることがわかります。
- 社員なら転勤は当然予想され、共稼ぎである限り、将来いずれかの転勤によって別居という事態が起こることもある程度予測していなければならない
- 転勤後、夫に別居手当が支給され、妻も従前どおり社宅の使用が可能な状況である
- 会社の経営上、転勤が必要であった
- 世間的に考えても共稼ぎである以上、別居に伴う精神的・経済的な苦痛は受け入れなければならない
- 夫婦は同居の権利義務があるとはいえ、転勤命令が同居の権利を侵害したということはできない
権利濫用にならないよう会社の取るべき対応とは
就業規則に社員の転勤の義務を定めた規定がある場合には、労働契約で勤務地が限定されていなければ、転勤命令は原則として有効となります。
よって、「単身赴任したくない」という理由だけで、転勤命令を無効とすることは極めて難しいといえます。ただし、業務上の必要性がない転勤命令、不当な目的や動機による転勤命令は権利濫用として無効になります。
また、単身赴任によって社員本人の病気の状態が悪化したり、家族の看病や介護ができなくなるといった、著しい不利益を社員に与えるような場合も、転勤命令は権利濫用として無効になります。
逆にいうと、転勤命令が権利濫用ということで無効になるような、以上のような事情がなければ、社員は会社の転勤命令に従わなければならないということです。
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上記のことから、会社の対応としては、社員に転勤を命令するときは、社員の家族構成、家族の状況(看護、介護の必要性など)などプライベートな事情をよく考える必要があることがわかります。
ただ、先にお伝えしたように、通常、会社は社員のプライベートに立ち入ることができません。そのため、転勤命令を内示したときに、もし社員が拒否反応を示すようなら、その理由を十分に調査する必要があります。本人や家族の病気治療など、なにか事情を抱えているかもしれないからです。
転勤によって、本人や家族に相当な不利益を及ぼす可能性が判明した場合には、転勤命令を撤回し、人選を改めることも必要でしょう。
「相当な不利益」が経済的なものであるなら、別居手当、住宅手当を支給するなど、不利益軽減の措置を検討することも大切です。
社員の納得性を高めるため、手間を惜しまずに対応したいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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