Aさんは上司の信頼が厚く、周囲からも慕われている。育休取得後も職場に復帰するつもりでみんな心待ちにしていたが、育休明けすぐに退職してしまった。これからは、育休明けすぐに退職した場合、育休中に支給した賞与を返還させて、いい加減にならないようにしたい。
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産後復帰を期待していたので育休明けすぐの退職にショックを受け、「復職するといって育休を取っても、いざ無理となったら辞めてもいい(Aさんもそうだったし)」といった雰囲気になるのを回避したい会社側の心情もわかります。
とはいえ、育休期間中に支給した賞与を会社に返還させることに問題はないのでしょうか。さっそく、詳しく確認していきましょう。
すでに支払った賃金の返還を求めることができるか
労基法24条は、社員にとって唯一の生活保障の手段である賃金を確実に入手できるよう、賃金の支払い方法を規制しています。
これによって会社は、①通貨で、②直接社員に、③その全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて、賃金を支払わなければなりません。
では、すでに支払った賃金の返還を求めることは、上記③の「全額払いの原則」に違反しないのでしょうか。
この点について、賃金請求権がそもそも発生しなかったのであれば、労基法24条とは関係がありません(たとえ賃金請求権があったとしても、一度支払っているので抵触しません)。
次に、すでに支払った賃金の返還請求は公序良俗に反する、または会社の権利濫用ということで無効にはならないのでしょうか。
これについて、「社員の退職後に懲戒解雇にあたる事由が判明した場合、退職金の返還を求めることができる」という就業規則の規定を根拠として、退職金の返還請求を認めた裁判例があります。
ここでのポイントは「(懲戒解雇に該当するような行為によって)会社が大きな損害を受ける」という事情があることです。つまり、すでに支払った賃金の返還請求が直ちに無効となるわけではないが、返還を求めるには社会的相当性が重視されるので、ケースバイケースの判断が必要だといえるでしょう。
育休後の退職を理由に賞与の返還を求めてもいいか
では本題の、育休明けに退職したことを理由として、休業期間中に支払われた賞与の返還を求めることはできるのでしょうか。
育児休業中は休んでいる(働いていない)ので、社員の賃金請求権は発生しません。また、会社に賞与を支給する義務があるかどうかは就業規則の定め方によるものなので、社員の賞与に対する権利性はそれほど強くありません。
ただし、前段の裁判例(退職後に懲戒解雇にあたる事由が判明し、退職金の返還請求を認めた例)を考慮すると、退職だけを賞与の返還請求の理由とするのでは、返還を根拠づける社会的相当性に欠けると考えられます。
また労基法16条は、労働契約の不履行に対して損害賠償額を定めることを禁止しています。社員の自由意思を不当に拘束し、社員の足止め策として利用されるなどのトラブルが発生するおそれがあるからです。
よって、育休後の退職を理由に賞与の返還を求める旨を就業規則に規定することは、労基法16条に抵触するので無効となるでしょう。育休明け直後に退職したからといって、休業期間中に支払われた賞与の返還を求めることはできません。
なお、賞与を出勤率に応じて、不支給や減額とすることは可能です。出勤率に応じた不支給や減額は、ノーワーク・ノーペイの原則によるものなので、育介法が禁止する不利益取扱いにはあたりません。
(※注:高すぎる出勤率を設定して、それを満たさなければ不支給となるといった極端な場合は、公序良俗に反するのでNGです)
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「みんなが育休を取ると職場が回らない」といったお話を伺うことがあります。
共働きが珍しいことではなくなった現在では、「社員が仕事に投入できる時間に制約がある」ことを前提にタスクの進捗管理、労働時間マネジメントを考えていくことも大切です。
「イノベーションは制約があるほうがうまくいく」という考え方があります。
新しいものをつくり出すプロセスに制約がないと、人は現状に満足し、最も安易な道を歩んでしまう、ということだそうです。
そこで、社員の時間制約を前提とした人材マネジメントが、ビジネスに斬新なアイデアをもたらすこともあるのではないでしょうか。まずは、仕事の優先順位付け、無駄な仕事の排除など、身近なことからコツコツ取り組みたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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