「企業には65歳までの継続雇用が法律で義務付けられているけれど、経営不振でリストラが必要なときでも、定年後の高年齢者を再雇用しなければいけないの?」
新型コロナウィルス関連の経営破綻など、世界中に広がる感染は経済活動にインパクトを与えています。そこで、リストラと高年齢者の継続雇用措置のバランスは企業として気がかりなところでしょう。このような疑問が生じるのはもっともです。
定年後のシニア社員の雇用継続はキープで、これからの企業の再建に必要な中堅社員や会社の将来を担う若手社員をリストラしなければならないのでは、企業経営は立ち行かないでしょう。雇用制度のあり方としてもちょっとヘンです。
そこで今回は、経営不振でリストラが必要でもシニア社員を継続雇用しなければならないのか、また人員整理の優先順位をどう考えるべきなのか、詳しく確認していきたいと思います。
リストラ中でもシニア社員の継続雇用は必要か
まず、高年齢者雇用安定法は、いつどんなときでも何よりも高年齢者の継続雇用ファーストを求めて、「若者よりもシニアの雇用を優先しなさい」と言っているのではありません。
若手社員を切り捨てて解雇したり、学卒の新入社員の内定を取り消してでも、定年後のシニア社員の継続雇用を必ず確保しなければならない、ということではないのです。
同法はあくまでも、シニア社員の継続雇用の制度づくりを企業に求めるものです。よって、シニア社員を65歳未満でリストラすることを禁止したり、人員削減のひとつの方法として、定年後の再雇用を行わないことを違法とするものではありません。
そこで、経営状況が著しく悪化し、会社存続のため人員整理の必要性が生じた場合、シニア社員の雇用はどのように考えるべきでしょうか。
先にお伝えしたように、法律の趣旨として下記のようなことを禁止するものではありません。
- 定年後の再雇用者を雇い止めにすること
- 勧しょう退職対象者の第一候補にすること
- 整理解雇の対象者の第一番目にすること
人員整理の優先順位をどう考える?
人員整理にあたっては、いわゆる「整理解雇の4要件」のうちの「解雇回避の努力」として、希望退職の募集や、勧しょう退職による退職の合意を得る努力が求められることになります。
この場合、これから企業の再建に必要な若手社員の雇用を維持することが、最優先で進めるべき課題です。
つまり、会社員をいったんリタイアしたシニア社員の再雇用を止める、あるいは一番初めに退職を求めるといった、人員削減の措置をとることは法律に違反するものではない、といえます。
【整理解雇の4要件】
※事業の継続が不可能になった場合の「整理解雇」について、次の4つが解雇の有効性の判断要素になる
- 人員整理の必要性(企業が客観的に高度の経営危機にあり、人員整理がやむを得ないか)
- 解雇回避の努力(配転、出向、残業禁止、新規採用の中止など可能な限りの努力を払ったか)
- 整理手続きの妥当性(整理の順序、方法、説明交渉を行ったか)
- 整理対象者選定の合理性(解雇してもやむをえない者を選考する基準に沿ったか)
さらに、上記4.の整理解雇対象者の人選の基準としては、「退職しても生活に困らない者」「企業再建のために必要性の少ない者」がありますが、これらの観点からシニア社員を第1順位に選定して(退職金などで経済的な打撃を調整できることや、体力的なものを考えて)、整理解雇しても不当とはいえません。
むしろ、現役バリバリの中堅社員やこれからの会社を背負う若手社員を整理解雇することは、整理対象者選定の合理性に反するため、解雇権の濫用として無効になります。
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以上をまとめると、経営不振でリストラを行っている場合にまで、シニア社員の再雇用が強制されているわけではありません。あくまでも、企業の経営や人事の状況を念頭においたうえで、「採用の自由」の範囲内において対応すればよいことになります。
ただし、再雇用をめぐる法的なトラブルが起きることのないよう、就業規則に「継続雇用しない事由」をあらかじめ明記しておくことが大切です。
就業規則の解雇事由または退職事由と同じ内容を、継続雇用しない事由として、規定することは法的に問題ないからです。
たとえば「経営状況から再雇用に支障がある場合」「業務の減少、生産の調整その他定年後の再雇用が困難となる事情がある場合」というようなことです。
こういった内容を就業規則にきちんと定めておくことが、シニア社員の継続雇用制度を長期的にわたって運用していくポイントになるでしょう。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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