上司が時間外労働を命令していなくても、部下の社員が居残り残業をしている・・・職場でわりと見られる光景ではないでしょうか。
ちょうどいまなら、新型コロナウィルスの影響で平常通りに行かなかった雑務の処理や担当業務の整理、諸々の連絡などのため、終業時刻後もデスクに向かう・・・という姿もあるかもしれません。
上司が部下の居残りを知りながらも、残業を中止させずにほったらかしにしていた場合、残業命令があったものとみなされるのでしょうか。つまり、労働時間としてカウントされるのかが問題です。
この状況が恒常的なものであれば、法律にもとづく時間管理が問題になるだけでなく、社員の健康状態が心配です。特にいまは、遅くまでの仕事による疲労で、身体の免疫力を落とすようなことは避けるべきですよね。
今回は、社員の自主的な残業を放置した場合、法律的に労働時間マネジメントはどのように考えられているのか、確認していきたいと思います。
時間外労働の命令が有効になるとき
会社に所属している社員は、会社から業務命令がないのに所定労働時間を超えて働く義務はありません。ましてや法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて働く義務はありません。
そもそも労基法では「1日8時間以上働かせてはならない」と規定しているので、時間外労働には会社の「働かせる」という積極的な意思が必要です。
では、会社(上司)の積極的な意思による業務命令によらないで、社員が自分の都合や自主的な判断で、終業時刻後も居残って働いている場合はどうでしょうか?
上司がこの状況を知りながらも、残業を止めさせずに放っておいた場合、その「社員の自発的な残業」を承認したことになるのでしょうか?
つまり問題は、会社の指揮監督下における労働として、黙示的に時間外労働を命じたと認められ、労働時間にカウントされるのか?ということです。そこで、会社の時間外労働の命令について、判例では次のような内容が示されています。
- ・時間外労働の命令は、一定の形式によらないとダメ、というものではない
- ・時間外労働の命令は、いつも明示的に出さないとダメ、というものではない(=黙示的なものであっても認められる)
黙示の指示とはどんなもの?
前段のとおり、時間外労働の命令は黙示的なものでも認められます。とはいえ、黙示的なものであったとしても、会社の意思表示に基づくものでなければなりません。
「黙示の意思表示」とはどういうことかというと、「明確な言葉や文字によらず、周囲の事情を判断し理解することで、初めてわかる意思表示」をいいます。つまり、あらゆる客観的な事情を総合的にみて、何かしら表示行為として解釈されるものがないとダメだ、ということです。
社員の自主的な居残りについて話を戻すと、単に職場に居残って残業しているという事実だけでは、黙示的な時間外労働命令があった、とは認められません。客観的にみて残業が必要であった、という事情や状況がないとダメです。
たとえば、会社が具体的に指示した仕事が、客観的にみて通常の勤務時間内では終わらないと認められる場合は、時間外労働の黙示の指示があった、とみなされます。もちろん、これによって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働として労働時間にカウントされることになります。
まとめると、「客観的にみて業務上の必要性があったか?」という点が、黙示的な時間外労働命令があったと認められるかどうかの判断のポイントになるでしょう。
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「やり残した仕事を明日に持ち越したくない」「今日中に処理しないと気になって仕方がない」「落ち着いた気持ちで翌日の仕事をスタートさせたい」ついつい終業時刻後も仕事をしてしまうのは、こんな気持ちからではないでしょうか。
そんな自分の心配事は横に置いて、「明日すっきりした気持ちで仕切り直そう」と仕事の区切りをつけることが、社員には求められます。
一方、上司としては、終業後もデスクに向かう部下の姿を見かけたときには、「その仕事が本当にその日中にやる必要性があるのか」とひと声かけて、帰宅を促したいですね。
職場の環境や仕事の効率を向上させるには、社員の努力だけではなく、上司の目配りやフォローも欠かせません。普段から、上司と部下の間で仕事の進捗状況を共有しておくことを大切にしたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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