各方面からの事情で縮小営業を余儀なくされてきた、グループ子会社の業績悪化が進んでいる。今期の赤字転落は避けられない。通常営業に向けすでに対策をとってはいるが、ここで形勢逆転のため、優秀な社員を親会社から送り込んで、子会社の立て直しを図りたいが・・・
**
経営状態の芳しくないグループ子会社への出向命令に対して、心配事を抱える経営陣。
・・・というのも、「不本意な人事」ということで、社員が拒否してくるのが想像に難くないからです。
そこで今回は、こんな状況でそもそも社員は出向命令を拒否できるのか、そして会社はどのように対応するべきなのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
その出向は予測できるものか
まず、会社の出向命令には社員の同意が必要です。ですが、社員それぞれ個別に同意を得なくてはいけない、というわけではありません。
暗黙もしくは包括的な同意で足りる、というのが裁判所による判断の傾向です。
つまり、就業規則に「会社は業務の都合上、社員に出向を命じることがある」との、社員の出向義務についての具体的で明確な規定があれば、通常は出向に対する包括的な同意が認められることになります。
ただし、社員の入社時に予測することのできない企業への出向命令は、労働契約の範囲外のものなので改めて社員の同意を得ない限り許されない、と考えられています。
というのも、そもそも出向先企業というのは、出向元企業の子会社や関連会社であることが多いからです(ほぼ身内の感覚ですよね)。
よって、こういったグループ企業に所属する社員は、就業規則に出向についての規定がある場合には、「いつかはグループ企業内の他の企業に出向することがあるだろう」ということを認識し、予測できると考えられます。
したがって、出向先企業が社員の予測の範囲内であれば、たとえ出向先企業の経営状況が芳しくないとしても、そのことをもって出向命令が無効になることはないといえます。
冒頭にもあるように、業績が悪化した企業に仕事のできる優秀な社員を送って、再建を図ったりすることはよくあることです。状況によっては、会社や事業を整理しなければならないかもしれません。そこで、たとえ出向先企業が倒産しても、出向社員は出向元企業に復帰することになり、身分は保証されています。このことからも、会社の出向命令は有効であり、社員には出向命令に応じる義務があるといえます。
出向命令が無効になるとき
ただ、出向元に復帰することが予定されている通常の出向ではなく、実質的には転籍となるような「出向命令」の場合は、権利濫用と判断される可能性が高くなります。
次のような内容から権利濫用と判断して、出向命令を無効とした裁判例もあります。
- 出向元企業にとって負担となっている零細工場の再建のために出向命令を発令
- 出向期間、出向元への復帰の保証等につき、何も明確に示さずに「業務上の必要のため」の旨のみで出向命令を強行した
- この出向命令の強行は人事権の正当な行使とはいいがたい
つまり、会社が出向命令を行うときには、出向先での職務内容などをしっかりと社員に説明し、人事評価の方法、昇進への影響など、社員の不安な点や疑問に誠実に答え、出向社員の不安を解消するように配慮しなければならないことがわかります。
出向命令を受けた社員にとって、業績が悪化した企業での孤軍奮闘を想像すると、今後の仕事のあり方について、やはり不安がつきまとうものです。
出向社員が抱く不安を解消する措置をとらなければ、出向命令が権利濫用と判断されかねません。出向社員がミッションに対して前向きに取り組むことができるような、人材マネジメントが会社には求められることになります。
出向元企業と出向社員では、どうしても物理的な距離があるので、お互いの状況が見えにくいもの。関係性に溝が生まれないよう、意思疎通のあり方(交流の頻度、仕事の進捗状況、本人の健康状態など)に配慮が必要だと思います。
■関連記事
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事