「ローンやクレジットなど複数の業者からの借金で返済が困難になって(いわゆる多重債務)、自己破産を申し立てる社員が職場にいると判明したとき、会社としてどんな対応をとるといいですか?」
業者(債権者)から職場に電話が頻繁にかかってきたため、本人に確認したところ事情が明らかになったようです。
多重債務、自己破産というワードには「ギャンブル?」「お酒?」「浪費癖?」といったイメージがあるかもしれませんが、不況など経済環境の変化に伴う収入の減少によって生活費や教育費などを補うために借金を重ねた・・・というケースは少なからずあります。
一般的に、社員が自己破産した場合は企業の信用問題にかかわるので、会社としては解雇にするべき?少なくとも人事異動は検討するべきでは?と判断に迷われる場合も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、自己破産した社員への会社の対応について、「解雇」と「人事異動」の場合に分けて詳しく確認していきましょう。
幹部社員の自己破産と解雇
社員が自己破産した場合、もしくは多重債務に陥った場合、会社としてはどのような対応ができるでしょうか。
基本的には、これらの状態はあくまでも社員のプライベートでの事情であり、業務とは関係ありません。社員のプライベートな事情は労働契約に影響しないのが原則ですから、自己破産や多重債務という理由だけでは解雇理由とはなりません。
たとえ業者(債権者)から職場に電話が頻繁にかかってきたとしても、それで業務に支障が出たとしても当の社員本人が電話をさせているわけではないからです。
ただし、特に信用が重視される業務に特約して従事している社員や、使用人兼務役員(役員のうち部長、課長などその企業における職制上の地位を有し、かつ、その立場としての職務に従事する者)、会社の幹部で特に高度な信頼関係が求められる者などについては、雇用契約や誓約書等で「自己破産の場合は当然退職とする」との合意があれば有効となります。退職としてよいでしょう。
一般社員の自己破産と解雇
一般社員の場合は、たとえ雇用契約や誓約書等による合意があったとしても、その合理性が問われます。つまり、一般社員においては通常は自己破産になったという理由だけでは解雇理由になりません。
もっとも、同僚などに保証人を依頼したために、同僚に金銭的に相当な損害を与えた場合(本人が免責されても保証人は債権者に返済しなければならないので、同僚に対していわば「借金踏み倒し」的な状況になる)には、人間関係が悪化することは想像に難くありません。
また金銭上の信頼を必要とする業務では、業務上の適格性に疑問があるかもしれません。自己破産に直面して精神的に不安定になると、安全管理のうえでも危険が伴います。
高度な安全監視、機器操作などの業務では本人だけでなく、同僚にも身体に(最悪のケースでは生命にも)危険を及ぼす可能性が考えられます。
もちろん個別具体的に判断しなければなりませんが、このようなケースでは業務上の不適格を理由として、解雇が正当と認められる場合もあると思われます。ですが、そのような場合でもできるだけ本人と話し合うことが必要です。職場規律を乱し、業務に支障をきたしたことへの理解を促し、自己都合退職とするのが賢明でしょう。
自己破産と人事異動
では、社員が自己破産などに陥った場合、これを理由とした人事異動を会社はできるのでしょうか。自己破産は社員のプライベート上のこととはいえ、業務運営上の都合から社員の就業場所や担当業務を変更することは、会社の人事権として認められています。
よって、社員に著しい不利益がない限り、自己破産した社員を人事異動の対象にできますし、この異動命令が直ちに権利濫用となることはないでしょう。ただし、実務的には慎重な対応が必要です。
会社は人事異動の命令権をもっており、そこに具体的な理由の明示は必ずしも求められません。「業務上の必要性」といったもので足ります。
そこで人事異動の理由を「自己破産のため」とわざわざ強調すると、「反省しているのに、会社からは更生の機会も与えてもらえないのか」などと、まったく必要のないもめごとに発展しかねません。
また、人事異動の時期も定期的な異動であれば、業務上の必要性は認められますが、それ以外の異動の場合、イレギュラーな時期にわざわざ異動を行う必要性(理由)が相当に求められることになります。
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多重債務状態になると、自分の力で解決することは難しくなります。もし、身近な部下がどうやら借金問題で悩んでいるらしい、ということがわかったときには、第三者(家族や公共性の高い相談機関)のアドバイスを取り入れて解決策を探すよう、促したいところです。自分だけで解決しようとすると、八方ふさがりになりがちだからです。
ただ、社員が困っているときに、会社として配慮やサポートを行っていこうとすると、どうしてもプライバシーの問題に直面します。プライベートな情報の把握は、上司の立場として難しい問題ですが、普段から部下が相談できる信頼関係を築いておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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