年俸制では、その人の年収を決定してから月給と賞与に振り分ける。
賞与は残業代計算の基礎に入れなくていいから、年俸制にすると人件費削減になるんじゃないの、スゴイ発見( *´艸`) (人事担当者談)
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社員の年収に占める賞与の比率は高いので、企業にとって賞与が人件費管理のポイントといえます。そのためこのような発想になりがちです。
とはいえ年俸制にしても、労基法の定める管理監督者などに該当しない限り、会社は社員の労働時間を把握して、残業代(割増賃金)を支払わなければなりませんし、年俸制の賞与部分が残業代の算定基礎に含まれるかどうかが問題です。
そこで今回は、年俸制における残業代(割増賃金)の計算について詳しく確認していきたいと思います。
年俸制と就業規則
年俸制とは、簡単にいうと、1年間にわたる仕事の成果によって翌年1年間の賃金を設定する制度です。
たとえば年収を16で割り、それを12か月分の月給とし、残りの4か月分を夏と冬の賞与に2か月ずつ振り分ける、というようなやり方もできます。
年俸制を採り入れた場合、それは社員の賃金の決定方法に他ならないので、就業規則の必要記載事項として規定しなければなりません。
もちろん就業規則を変更する場合は、その合理性が問われることになります。
また、年俸制を運用するなかで、1年間の仕事の成果を問う目標達成度の評価について、会社と社員本人の意見が対立して折り合いがつかない場合があるかもしれません。
こんなとき、日本では長期雇用システムを前提としている(解雇の有効性が厳しく問われる)ことから、会社に評価の決定権があると考えられています。
ただし、この評価の決定権は、目標設定のあり方とその評価についての公正な手続き、苦情処理の手続きなど、制度として就業規則に明文化されていることが必要なのは言うまでもありません。
年俸制と残業代の計算
年俸制では、年俸制の内容と残業代(割増賃金)の算定基礎となる賃金が問題になります。
前段でお伝えしたように、「年俸の16分の1を月給として支給し、残りの16分の4を二分割して、6月と12月に賞与として支給する」といった、賞与を含む年俸制がみられるケースも多いためです。
通常、賞与は割増賃金の基礎となる賃金に算入されませんが、この場合の「賞与」とは、支給額があらかじめ確定されていないものをいいます。逆にいうと、支給額が確定されているものは「賞与」とはみなされません。
したがって、毎月の月給部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の年俸制では、この賞与部分は「割増賃金の基礎となる賃金に算入されない【賞与】」に該当しません。
つまり、割増賃金の算定基礎から除外できないことになります。賞与部分を含めてその確定した年俸額を算定の基礎として、割増賃金を支払わないといけません。
賞与分を除いた残りの月給分が割増賃金の算定基礎額としているつもりが、賞与分もプラスされてしまうと割増賃金の算定基礎額がかなり多くなります。そのため、”一般社員に年俸制を導入するということは残業代(割増賃金)をアップさせる可能性がある”ということを頭にいれておく必要があります。
ただし、「基本年俸(月給の12か月分)+業績評価により格差がつく賞与部分(あらかじめ額が確定していない)」といったスタイルの年俸制では、この賞与部分については「割増賃金の基礎となる賃金に算入されない【賞与】」となります。
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年俸制のスタイルによって、賞与が割増賃金の算定基礎となるかどうかが変わってきます。
本来であればやる気を引き出すための「賞与」が、逆に社員のモチベーションを下げる要因(「残業代の計算にはいっていないのでは?」といった社員の疑念など)になると、本末転倒といわざるをえません。
先にお伝えしたように、コスト増の可能性もあるので、それを上回るメリットがない限り、年俸制の導入(特に一般社員)は得策でないのかもしれません。
「企業の負担が重くなりすぎて困る(こんなはずじゃなかった・・・( ;∀;)」と、あとあと後悔しないよう、年俸制の導入には慎重に検討を重ねたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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