「入社時に、所定の必要書類を提出しない者がいた場合、会社としてどのように対応するといいですか?書類の内容は家族関係などプライベートに関わるものなので、強く言っていいのか対応に悩みます( ;∀;)」
コンサルティングのなかで、「採用選考時の提出書類」と「採用決定時の提出書類」をきちんと分けておきましょう、といったことをお話ししていると、このようなトピックをお伺いすることがよくあります。
企業は採用選考において、選考のため必要となる適正な書類を、応募者に求めることになります。さらに採用決定時には、会社の手続きで必要ないろいろな書類の提出を、追加して求めるのが通常です。
そこで今回は、採用選考時と採用決定時の提出書類の区別に触れながら、採用決定(入社)時に必要書類を提出してこない社員への対応について、詳しく確認していきたいと思います。
採用選考時の提出書類とセンシティブ情報の取扱い
採用選考時に、会社が書類審査のため応募者に求める提出書類には、次のようなものが挙げられます。
- 履歴書
- 職務経歴書
- 健康診断書
- 成績証明書・卒業(見込み)証明書(新卒者のみ)
- 在留カードの写し(在留資格を有する外国人のみ)
- 各種資格証明書
上記の健康診断書は、応募者の適性と職務遂行能力を判断することが目的です。健康診断書の内容は採用選考のため、合理的かつ客観的にその必要性が認められる範囲に限られます。
厚生労働省では、「就職差別につながるおそれがある」ということで、適性や能力の判断に必要のない採用時の肝炎ウイルス検査、血液検査、健康診断を行わないよう指導しています。
また、採用選考時におけるセンシティブ情報の収集について、個人情報保護の観点から原則として認められません。厚生労働省の指針では、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報として、次の内容が示されています。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
なお、こういったセンシティブ個人情報の収集は、一切禁止されているわけではなく、「特別な職業上の必要性があり、その他目的達成に必要不可欠」であって「収集目的を示して本人から収集する場合」は許されています。
採用決定時の提出書類と不提出の社員への対応
採用決定時に会社が社員に求める提出書類は、労働社会保険や所得税、給与計算の手続きに関わるものだけでも、ざっと次のようなものが挙げられます。
- 特定個人情報(※)等の取扱いに関する同意書※マイナンバーをその内容に含む個人情報のこと
- 住民票記載事項の証明書
- 源泉徴収票(入社の年に給与所得のあった人のみ)
- 年金手帳(すでに交付を受けている人のみ)
- 雇用保険被保険者証(すでに交付を受けている人のみ)
- 給与所得の扶養控除等(異動)申告書
- 健康保険被扶養者届(被扶養者がいる人のみ)
- 賃金の口座振込に関する同意書
このように、社員の個人情報には、収入や家族関係などのセンシティブ情報も含まれています。個人情報保護法が保護する個人情報には、会社内部の社員の個人情報も含まれますので、その取扱いには特別な配慮が求められるのは言うまでもありません。
ですが、所定の必要書類を正当な理由がないにもかかわらず会社に提出しない、というのでは話は別です。入社してから決められた期日内に提出しないことは、手続きの遅延を招くなど会社に迷惑をかける不誠実な行為であり、社員としての適格性を疑われる事態になりかねません。
健保組合の家族調書などの必要書類を提出しなかった、試用期間中の社員を解雇した件について、「必要書類が提出されない場合、会社と社員の雇用関係に重大な支障をきたす」ものとして、解雇の有効性を示した判例もあります。
もし採用にあたって必要書類を提出してこない社員がいるなら、
- 労働社会保険、所得税の手続きができないので会社の担当者に迷惑をかけるだけでなく、本人にも不利益をもたらすこと
- 会社生活のスタート段階で会社のルールを守らない(会社の命令・社員としての義務を果たさない)ということなので、誠実さに欠ける行為と言わざるを得ず、社員としての適格性が問われる。
- このまま必要書類が提出されなければ、会社との信頼関係の維持は難しくなる。
これらのようなことを落ち着いて相手に伝えて、書類の提出を促したいところです。
(新人さんも入社したてで緊張しているようなら、萎縮させないよう、柔らかい態度で接することがポイントです。「怒られている!」と感じると相手も妙にかたくなな態度をとり、変に事態がこじれてしまう可能性もあります。)
また、もしかすると社員にも何かしらの事情があるかもしれません。
(入社したてで言い出しづらかった?、バタバタしていて引っ越ししたのにまだ住民票の手続きが済んでいない?、被扶養者や扶養親族のことがわからない?・・・等)
ソフトな態度で状況を聞き出したうえで、事情を斟酌して、ケース・バイ・ケースの対応(提出期限を延ばす、支障のない範囲で一部の書類提出を免除するなど)を心がけたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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