海外出張中のケガに労災保険は使えますか?

パンツの足を組んで椅子に腰かける女性。膝の上に新聞とカメラ。

「社員を海外に出張させたり、海外の支店や現地の企業に派遣する場合万一の事故やケガに、国内と同じように労災保険は使えるのかな?」

 

物理的に遠く離れた赴任途中や赴任先での社員の事故やケガは、経営者や管理職にとってとても気がかりなことです。 

 

テレビ会議やウェブツールなどの導入により、社内会議にまつわる国内出張は一般的に減少傾向にあるようですが、月1回程度~年5回以上の頻度の海外出張は増えているそうです。

 

外勤務は大きく区分すると、海外出張と海外派遣の2パターンありますが、それぞれで労災保険の適用はどうなるのでしょうか。

 

そこで今回は、出張をはじめ社員を海外勤務させるとき災保険は適用はされるのか、詳しく確認していきたいと思います。

海外出張の場合

新聞の上に置かれたスマートフォン。世界地図の柄のケース。

出張とは、ある特定の業務を行うために通常の勤務場所を一時的に離れて、指示された現場に出かけることです。人事異動による転勤とは異なり、労働契約の内容を変更するものではありません。

 

出張中、出張の行程においては総じて会社の支配下にあると考えられています。よって、出張中(往復途中を含む)の事故やケガは、原則として業務遂行性(社員が労働関係のもとにあった場合に起きた災害であること)が認められるため、労災保険の適用対象となります。

 

海外出張は、業務に従事する場所が一時的に海外にあるだけです。国内出張と同じように会社の指揮命令下にあります。したがって、海外出張者について何ら特別の手続きは必要なく、(所属する)国内の事業所の労災保険によって処理されることになります。

 

なお、海外出張の例をあげると、商談や技術・仕様などの打ち合わせ、市場調査・会議・視察・見学、アフターサービス、現地での突発的なトラブルシューティング、技術習得などのために海外に赴くケースなどがこれに該当します。

海外派遣の場合

テーブルに広げられた世界地図の上に置かれたノートパソコン。

海外派遣では、社員は海外支店への転勤や、現地の企業への出向によって、海外事業所の指揮監督のもとで働くことになります。労災保険は属地主義をとり、日本国内の事業だけに適用されるのが原則です。

 

ですが、海外では業務災害に対する補償が十分とはいえない背景があるため、海外派遣者として労災保険に特別加入することができます。海外派遣者として特別加入をすることができるのは、下記のいずれかに該当する場合です。

  1. 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に社員として派遣される人
  2. 海外の中小企業に代表者等として派遣される人
  3. 独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

具体的な例をあげると、海外関連会社(現地法人、合弁会社、提携先企業など)へ出向する、海外支店・営業所などへ転勤する、海外で行う工事に従事する・・・といったケースが考えられます。

 

なお、現地採用の場合は、国内の事業からの派遣ではないため、労災保険に特別加入することはできません。また、単なる留学を目的とした派遣についても、海外において事業に従事するものと認められないため、特別加入することはできません。

 

海外派遣中の事故やケガが労災保険の対象となる業務災害であるかどうかの認定は、国内の社員と同様の考え方(いわゆる「業務起因性」~業務と傷病等の間に一定の因果関係があるかどうか?~と「業務遂行性」~社員が労働関係のもとにあった場合に起きた災害であるかどうか?~が必要)で行われることになっています。

 

海外派遣者の特別加入は、通常の国内の労災保険とは異なり、海外派遣者の個人名の登録が必要です。よって、海外派遣者を帰国させ、後任者をかわりに派遣したときは、対象となる海外派遣者の異動の手続きを行う必要があります。これをうっかり忘れて怠ると、加入漏れの扱いとなってしまいます。労災保険が適用されなくなるため、注意しなければなりません。

 

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以上をまとめると、海外出張の場合は当然に労災保険が適用され、海外派遣の場合では特別加入制度に入らなければ労災保険は適用されません。

 

海外出張にあたるのか、海外派遣にあたるのかの判断のポイントは、社員が日本国内の会社の指揮命令によって業務を行っているのか、それとも海外の会社の指揮命令によるものなのか、ということです。

 

決して海外での滞在期間の長さによるものではありませんし、海外での仕事の進捗にもかかわってくるので、指揮命令の関係を明確にして社員を海外へ送り出したいですね。

テーブルに置かれた一輪の薄いピンクのバラの花。

社会保険労務士高島あゆみ

■この記事を書いた人■

社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ

「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。

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伸びる会社の就業規則作成コンサルティング。花びんに活けられた真っ赤なバラ。白の置時計。
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