「重大な違反行為が判明したとき、会社が懲戒解雇を決めるまでの間、その張本人が出社すると職場の雰囲気がぎくしゃくすると思います。そんなときは本人に自宅待機を命じてもいいのでしょうか?」
少人数のアットホームな経営から規模を拡大していくときなど、会社をステージアップさせる機会に、懲戒処分の基準の見直しについてご相談をいただくことがあります。社内外での態度や姿勢について改めて社員の気を引き締めたい、というのがその意図です。
懲戒については、同じ違反行為を2回懲戒処分にすることは禁止されているのですが、「出勤停止からの懲戒解雇」という処分はこの二重処分の禁止にあたらないのでしょうか。
そこで今回は、懲戒処分を決めるまでの自宅待機は二重処分にあたるのかどうかについて、詳しく確認していきたいと思います。
二重処分禁止の原則とは
会社には、企業の存続・運営・維持のために、企業秩序を確かなものにすることが必要です。
そのため企業秩序を乱す社員に対して、会社がその回復のために懲戒処分を行うことは当然の権利として認められています。
ただし、会社がこの懲戒処分の権限をもって社員を懲戒処分するにあたっては、守らなければならない原則があります。そのうちのひとつに「二重処分禁止の原則」があります。つまり、1つの違反行為に対して二重の処分をすることは許されません。
ただし、以前に懲戒処分を受けながらも、反省の色を示すことなく懲りずに再び繰り返した場合には、それまでの事情を考慮して、重い懲戒処分を課すことは違法ではありません。
【例】
- 4月1日に無断欠勤(1回目)→けん責
- 10月1日に無断欠勤(2回目)→減給(前回より重い懲戒処分)
また、懲戒事由にあたる違反行為を人事評価において考慮することは、2度懲戒処分を行ったことにならず、違法ではありません。
【例】
- 無断欠勤を繰り返した社員に懲戒処分を課す
- 「度々の無断欠勤」という行為を査定(人事評価)してボーナス減額
懲戒処分決定までの自宅待機
では、冒頭の質問例のように懲戒解雇にあたるような重大な違反行為をした社員に、懲戒処分決定までの間、自宅に待機させ出勤を停止することは、前段でお伝えした「二重処分禁止の原則」に反するのでしょうか?
この自宅待機について、次のような内容で行われるのであれば懲戒処分には該当せず、(懲戒処分を決定するための)準備的な行為として有効であると解釈されています。
【自宅待機の目的】
- 自宅待機は懲戒処分としての出勤停止処分ではなく、あくまでも処分決定までの間に証拠隠滅や同じような行為の再発を防止するために、就業制限を命じるものであること
【自宅待機中の賃金】
- その期間中の賃金を支払う前提で行われたものであること
【自宅待機の日程】
- 懲戒解雇の処分(自宅待機中に決定した懲戒処分)と極めて密接した期間内に行われたものであること
まとめると、「懲戒処分までの間に本人を出社させることは不適当」とする合理的な理由があれば、自宅待機させてもよいということです。
なお、ここでの「合理的な理由」とは【本人を出社させることで会社の経営を妨げる場合】のことを指します。たとえば次のような場合です。
- 同じような秩序違反を繰り返すおそれがあること
- 証拠のもみ消しを図るおそれがあること
- 他の社員に悪影響を与えて、職場の秩序を乱すおそれがあること
- 取引先に対して悪い印象を与えて、会社の信用を落とすおそれがあること
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懲戒処分に対して「〇〇すると罰しますよ」というような社員を縛る、ネガティブなイメージを持っている人もいるかもしれません。
ですが、会社には業績アップにつながるよう社員を教育・指導する義務があり、その活動の一環に信賞必罰としての懲戒処分があります。
仕事はチームの連係プレーで成り立つものなので、企業秩序を守ることを教育し、企業秩序の違反を未然に防ぐことは、会社の業績の伸びにも大きく関わってきます。
懲戒処分の対象となる行為を就業規則に規定し、しっかり社員に説明することは、人材マネジメントにおいてとても重要なプロセスであることは言うまでもありません。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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