まだ夏のような暑さですが、空の高さで秋の気配を感じます。秋は人事異動の季節。10月に配置転換や出向を行う企業もあるでしょう。
出向社員は、出向元企業に在籍したまま出向先企業で業務に従事することになります。出向前には出向元企業から支払われていた給料や賞与、出向後はどちらの企業から支払われることになるのでしょうか?
また、出向元と出向先で異なる昇給基準はどちらの基準によるのでしょうか?
賃金は重要な労働条件のひとつであり、社員の関心も高いトピックなので、しっかり押さえておくことが肝要です。
そこで今回は、出向社員に対する賃金や賞与の支払い義務はどちらにあって昇給基準はどうなるのか、詳しく確認していきたいと思います。
出向社員への給料の支払い方
賃金は仕事をこなして働いたことへの対価です。このことから、理屈としては、出向社員から労務の提供を受ける出向先企業に賃金を支払う義務があるといえます。ですが、出向元企業と出向先企業の賃金規程がまったく同じであることはほとんどありません。
従って、関連企業やグループ企業などの間でたびたび出向が行われる企業では、就業規則の一部として出向規程を定めるなど、出向についての基本的事項を決めているのが一般的です。
これに加えて、個々の出向のパターンに応じて、出向元企業と出向先企業との間で具体的な出向契約を締結する場合がほとんどでしょう。
この出向契約において、賃金の支払い義務者や支払い方法が決められることになります。
出向では出向元企業の賃金規程の方が、社員にメリットの多い内容である場合があります。そこで実務では、次の2つの方法で対処することが一般的です。
- 出向先企業が出向社員に給料を支払い、その差額を出向元企業が補填する
- 出向元企業が出向社員に給料を支払い、出向先企業が出向元企業に分担金(出向先企業の負担分)を支払う
賞与と昇給基準はどうなる?
賞与の支払いについても、基本的には賃金と同じように考えます。よって、賞与を支払う義務は、原則として、賞与支払いの対象期間に労務の提供を受けた出向先企業となります。
もし、出向先企業で賞与の支払いができない場合には、出向元企業が賞与の支払いを保証すべきと考えられます。また、「出向元企業に在籍したまま出向先企業で仕事する」という出向の法的な性質を考えると、賞与額の基準は出向元企業の基準によるべきです。
ただし、これらは出向元企業と出向先企業との出向契約で決めることができますが、出向によって出向社員に不利益を与えないようにしなければなりません。
昇給については、その年の社員の賃金水準を決めるだけでなく、将来の賃金や退職金にも影響を与えます。出向社員がいずれは出向元企業に戻ることを考えると、出向元企業の基準によるとするほうが理にかなっています。
けれど、出向先企業の労働組合が締結する労働協約の一般的拘束力が出向社員に及ぶ場合や、出向社員が出向先企業の基準によることに同意している場合には、出向先企業の昇給基準が適用されることになります。
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繰り返しになりますが、賃金とは月々の給料、賞与、退職金など、社員が仕事をした分の対償として会社から支払われるものです。
人が日常生活を送るうえでお金が必要である以上、否が応でも、会社の人材マネジメントの中核になるものでもあります。これをどう扱うかは、当然会社の成長に大きくかかわってきます。
また、出向社員とは(違う企業にいるので)物理的な距離があるので、普段のコミュニケーションが頻繁に行われているわけではありません。
同じ社内にいる社員になら(ニュアンス的になんとなくであっても)伝わることが、出向社員にはうまくいかないことも考えられます。そのため賃金に関することは特に、丁寧に対応していきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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