台風のシーズンは電車やバスが遅れたり、運休になることもしばしば。社員が出勤できるのは、始業時刻をだいぶ過ぎてからということもある。 納期がひっ迫しているときならパニックだ(;゚Д゚)。
そんなとき、始業・終業時刻を後ろにずらせないにかな?うちではフレックスタイム制をとっていないからダメかな?
**
職場にフレックス制を導入していないと、始業・終業時刻を動かすことはできないのでしょうか?
結論からお伝えすると、就業規則に規定すれば、いわゆる就業時間帯の繰上げ・繰下げを実施することができます。これは、変形労働時間制やフレックスタイム制にはあたらないからです。
そこで今回は、就業時間帯の繰上げ・繰下げとはどういったものなのか、詳しく確認していきたいと思います。
始業・終業時刻とはどんなもの?
そもそも会社における始業・終業時刻とは、法律的にみてどんなものなのでしょうか。
まず、労基法が規制する労働時間は、「実労働時間制」をとっています。会社の直接的な指揮命令のもとで実際に働いた時間を、労働時間としてカウントする、ということです。
社員の遅刻や早退、私用の外出など、会社の監督から離れて就労しなかった時間があるときには、これらを除いてカウントし、1日8時間以内かつ1週40時間以内であれば適法です。
つまり労基法では、たとえば「1日7時間労働の約束のところを8時間労働させた」といった契約外の労働をさせることを罰し、禁止しているのではありません。「実労働時間が1週40時間、1日8時間を(36協定の締結がないのに)超えて労働させること」を罰し、禁止しているのです。
ところで各企業では、必ずしもこのような実労働時間制をとっていません。始業・終業時刻を就業規則に定める形式主義をとる場合のほうが多いでしょう。定めた始業・終業時刻を基準として、残業時間(時間外労働)をカウントしています。
「始業・終業時刻を就業規則に定める形式主義」というと難しく聞こえますが、割と普通にみられる取扱いです。
たとえば、ある社員が午後から早退して、結果として5時間ぐらいしか働かなかったとします。それが始業時刻より以前に会社からの命令によって働いていたときには、「早出残業」と取り扱います。終業時刻についても同じく、たとえ私用で午前半休をとり、結果として6時間しか働いていなくても、終業時刻を超えて働いた分を「残業」とします。
つまり、当日の実労働時間の長短にかかわらず、始業時刻より以前に、もしくは終業時刻を超えて働いた分を「残業時間」としてカウントし、残業代を支払うというものです。「結果として5時間しか働いていないから、早く出勤して働いてくれた分は残業にならないよ」とか、「午前半休とった分、定時を過ぎて仕事しても残業にならないよ」といった扱いにはしない、ということです。
このような取り扱いは、法律上のものではなく、法律を上回るその会社独自のものといえます。
労働時間の繰上げと繰下げ
前段のとおり、労基法は「実労働時間主義」をとっているので、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げは会社の自由です。
結果的に1日8時間、1週40時間を超えない限り、労基法上の時間外労働時間にはあたりません。
とはいえ、社員に会社の繰上げ・繰下げ命令に従う義務が発生するためには、労働契約上の根拠がなければなりません。
この労働時間の繰上げ・繰下げについて、就業規則に規定しておくことが必要になります。
また、この繰上げ・繰下げの労働時間の変更は、オフィス全体で実施する必要はなく、それぞれ社員ごとにも実施できます。
冒頭の例のように、悪天候による公共交通機関の遅延があったとき、たとえば始業時刻より1時間遅れて出勤してきた者に対し、その日の終業時刻を1時間遅く設定することにより、本来の終業時刻後1時間の労働を時間外労働の扱いとすることなく、8時間労働させることが可能になります。
**
なお、就業規則に「業務の必要上、始業・終業時刻を繰上げまたは繰下げることができる」と、抽象的な定め方でも有効ですが、どういった場合に労働時間の繰上げ・繰下げが実施されるのか、できるだけその事由を書いておくことが望ましいと思います。
「まったく予想もしないときに繰上げ・繰下げが行われるのではないか?(自分のプライベートの予定にしわ寄せがくる!)」と、社員に不安感を抱かせないようにするためです。具体的には、天災事変、交通ストなどの場合のほか、業務上の必要に応じて繰上げ・繰下げが可能であることを明記しておくとよいでしょう。
「労働時間の繰上げ・繰下げは、あくまで仕事を滞りなく進めるためのひとつの手段である」と伝えることが、社員のいらぬ誤解を回避するポイントです。近年は、自然災害が多発していることもあり、通常の勤務体制をとることが難しい場合もあるでしょう。
そんなときも、可能な限り事業を継続していくために、みんなで力を合わせて柔軟に対応していきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事