「うちの仕事に必要な資格をできるだけ多くの社員に取得してもらいたい。ただ、社員からは”会社がやれというなら勉強しますが、その時間に残業代はつきますよね”と返ってきた。どう対応するといいのか・・・」
仕事への意欲を高めるために、資格取得をすすめる会社と、資格試験へのチャレンジを対価でもって認めて欲しい社員。
社員のやる気に水を差さないように、資格試験の勉強時間を労働時間にカウントするべきなのか、頭を悩ます経営者・人事担当者の方は少なくないようです。
個人的にはどちらの気持ちも理解できるのですが、春らんまんの美しい季節に気持ちよく勉強のスタートをきれるよう、法律的にどのように扱われるのかをまずは押さえておきたいですよね。
そこで今回は、資格試験の勉強が労働時間にカウントされるのかどうかについて詳しく確認していきたいと思います。
試験勉強が労働時間にカウントされるとき
会社の業務内容に深く関わるため、社員に対して機械加工、塗装、情報技術などの技能検定試験や、ボイラー、クレーンをはじめとする免許試験の受験を命じることはあるでしょう。
試験に必要な学科や実技について、合格率を高めるため社内で開く講習会や勉強会に絶対参加を命じる場合、この試験勉強の時間は労働時間にカウントされます。これは、明らかに業務命令に基づくものだからです。
また、たとえばクレーンを操縦する運転士の社員が病気やけがで入院していたり、退職予定であって代替要員がいない場合など、会社としてどうしても社員に免許試験の受験を要請せざるをえないこともあるかもしれません。
そのような場合で、受験の命令とともに社内講習会への参加も会社から黙示的に命じられていると判断されるときは、この試験勉強の時間も労働時間としてカウントされます。ただし、たとえ会社のほうから受験を勧めたとしても、次の1)かつ2)のような場合は労働時間にカウントされません。
- 実際に受験するかどうかは社員の自由意思に委ねられている
- 受験希望者に対する講習会も自由参加。不参加者に対して会社が何らかの不利益な取り扱いをすることはない
試験勉強が労働時間にカウントされないとき
社内の講習会や勉強会は、試験合格者をできるだけ多く輩出するため会社が費用と時間を割いて、わざわざ開催されるものです。
そのため、社員の参加が期待されているものと考えられますが、資格試験とはそもそも社員自身の技能資格や免許の取得ができる、自分のためのものです。
よって、講習会への明らかな参加命令やそのような指示がなければ、その試験勉強の時間はただちに労働時間にカウントされません。
とはいえ、「社員が自分の意思で自発的に受験を希望して、社内の講習会に参加するといっても、会社側がそのように誘導したといえるのでは?」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一般的に、会社が勧める資格試験に合格した場合には、本人の仕事の幅が広がるため社内のポジションを上げたり(昇格)、給料アップ(昇給)をはかると考えられるからです。ざっくばらんにいうと、語弊があるかもしれませんが、目の前にニンジン【昇格や昇給】をぶら下げた【資格試験の受験や講習会への参加を促す】のではないか?ということですね。
けれど、会社としてはできるだけスキルや免許の資格を持つ社員が増えるのは、会社を伸ばすために望ましいことです。そして、スキルや免許の取得に向けたモチベーションを引き出すことは、人材マネジメント上とても重要です。
また、職業能力開発促進法においては、社員が自らキャリア開発の設計・目標設定、そのための能力開発を行うことの支援を(努力)義務として会社に課しています。
よって、会社が資格試験に向けた講習会や勉強会は、職業能力開発促進法による会社の援助義務のひとつとして、社員のキャリアアップのための支援措置と考えられます。まとめると、業務命令として受講を命じたものではなく自主参加であれば、やはりこの試験勉強の時間は労働時間としてカウントされません(もちろん残業代の問題も発生しないことになります)。
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キャリアを磨いていくことは個人の責任である(職業能力開発促進法に書かれています)、といっても、やはり仕事をしながら時間をわざわざつくって、自主的に勉強するのは骨が折れることです。
勉強の決意を固めても、自分ひとりだとついついスマホをいじってしまったり、夜食の菓子パンを食べて満腹で寝てしまった、普段なら気にならない部屋の片づけになぜかいそしんでしまった・・・というのは、「ひとり勉強あるある」ではないでしょうか?(とてもよくわかります!)
そこで、会社の主催による講習会や勉強会を存分に活用する手はない、と思いませんか。
せっかく会社が講習会や勉強会を開くのに、参加に手を上げる社員が少ないときは、仕事に関する勉強が自分のキャリアや人生にどのようにプラスに働くかというメリットを、ぜひ伝えたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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