3月も半ばを過ぎ、街中ではスプリングコート姿をよく見かけます。
個人的には、朝晩の寒さに冬物のコートが活躍中ですが・・・
さてコートといえば、「コートの下に制服を着ていくので、コートの季節は一本遅くの電車で通勤できる」という話を聞いたことがあります。
以前、この制服通勤について人事部の管理職の方からご質問をいただきました。
「会社に着たら仕事をする、仕事が終わったらダラダラ居残っていないで帰る。オンとオフをしっかり切り替えるため、制服通勤を禁止しようと考えています。マネジメント上で注意する点はありますか?」
制服での通勤を認めないとなると、当然会社で制服に着替えることになりますが、問題となるのは、会社で制服に着替える更衣時間をどう考えるかです。
今回は、この更衣時間を労働時間にカウントするのか、しないのかについてみていきたいと思います。
社員の労働義務とは
まず、会社に勤務する社員には、労働契約により約束された労務を提供する義務があります(労働義務)。
つまり、命じられた仕事を完全にこなすことができる心身の状態で出勤しなければならない、ということです。
ですから、昨晩の飲み過ぎによるひどい二日酔いの状態であってもとにかく会社に行けばよい、というわけではありません。
適切な仕事ができる状態とは言い難いですし、現場作業であれば仕事に支障が出るレベルを超えて、安全管理上とても危険です。
同じように、たとえば始業時刻に遅れることは、労働契約に定める約束の時間に労務を提供しなければならない、という約束に違反します(債務不履行)。
それだけではなく、一緒に働く同僚にとっても、共同作業ができないことから業務の停滞を招いてしまうこともあるでしょう。
作業の遅れから対外的な会社の信用を損ないかねません。職場の規律、ルールを乱すことになってしまいます。
ですから、社員は心身ともに万全の状態で、所定の労働日に決められた始業時刻までに、当日の仕事内容にふさわしい、適した服装(現場作業なら、作業服、安全帽、安全靴などの着用)で労務を提供しなければなりません。
更衣時間は労働時間にカウントする?
前段のように、社員は「作業に適した服装」で労務を提供しなければ労働義務に反することになります。仮に社員が働くのにふさわしくない、不適当な服装で仕事をしようとしたときは、会社はそれを拒否することができます。
ですから、制服に着替える更衣時間は原則として社員側で負担するべき時間であり、労働時間ではありません。
けれど、更衣時間が会社の指揮監督のもとにあると認められるような、特別な具体的事情があるときは、労働時間にカウントされる場合があります。
もちろん、どんな場合が労働時間になるかは具体的なケースに応じて判断しなければなりませんが、大まかな基準は次のようになります。
① 会社の命令(就業規則などに基づく)で社外での制服の着用が禁止されており、決まった時間に所定の更衣室において、更衣することが義務付けられている。かつ、服装の点検がその場で行われているような場合
② 業務の性質上、作業服に着替えて作業しなければならないので、服装の管理を会社が行っている。服装の管理も会社の労務管理の一部となっている。その管理責任が会社にあり、必ず会社の支配管理のもとで更衣すべき義務がある場合
【例】
- クリーンルームで作業する場合の作業衣(半導体の製造従事者など)
- ホテル従業員、警備員、車掌など(職務を明らかに識別する必要性がある)
- 制服の警察官、消防士など(身分と責任を明白にする必要性がある)
③ 一般社員と違って、その業務の性質上特殊な服装をしなければならない場合(その服装を装着すること自体が業務となる。更衣時間はその業務に必要な作業準備行為)
【例】
- 熱処理現場の耐熱服
- 商品などの宣伝用の服装をしたマヌカン、ファッションモデル(ファッションを展示するために服を着る女性)など
- 法令上で着用が義務付けられている服装など
これら①~③にように、業務上の必要性や義務それに加えて会社の直接的な指揮命令のもとで行うという拘束性のある場合を除いては、労働時間としてカウントしなくても差し支えありません。
なお、会社に到着して門をくぐってから実際に仕事を始めるまでの間、どんな場合に労働時間にカウントするのか・しないかについて、過去記事「タイムレコーダーで時間管理するときの留意点」で詳しく書いていますので、そちらも参考にしていただければと思います。
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仕事の制服を身に付けると、ピリッと身が引き締まりますよね。
会社で制服に着替える、というのは「さあ、これから仕事だ!」と仕事前によい緊張感を持つための方法のひとつだと思います。
ただし、先にお伝えしたように、会社で制服に着替える更衣時間をどのくらいのレベル(拘束や義務など)で考えるかによって、労働時間にカウントするかが問われることに注意が必要です。
毎日気持ちよく仕事のスタートを切るために、職場内でメンバーが共通した認識を持っておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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