新年度に向けて、就業規則をはじめとする規程の見直しにあたられている企業も多いかもしれません。
たとえば出張について。旅費の水準は、それぞれの企業での出張の実情に応じて考えるべきですが、実は、出張旅費など実費弁償的なものは労基法で定める賃金にあたりません。
とはいえ、給料と実費弁償的なものを混同してしまっているケースは意外と多いのではないでしょうか(これには理由があるのですが)。
社員に関係するお金面については、きちんと整理して把握しておきたいものですよね。
そこで今回は、出張の旅費・日当をはじめ、そもそもどのようなものが社員の給料にあたるのか、またはあたらないのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
社員の給料にあたるものとは
労基法では社員の給料(賃金)について、「賃金、給料、手当、賞与などの名称によらず、労働の対価として会社が社員に支払うすべてのもの」として定義されています。
労働の対価とは、実際に働いた労働時間や完成させた仕事の出来高に応じて支払われるものだけではなく、次の①かつ②を満たすものであればすべて社員の給料にあたります。
- 社員の生活を維持していくために会社が社員に支給するもの
- 支給条件が明白なもの(社員に法律上の請求権があるもの)
このようなものであれば、名称がたとえ「〇〇補助」や「〇〇助成」などとなっていても、社員の給料にあたります。
また、社員としての地位にあるため、本来であれば社員が負担しなければならない保険料等(たとえば健康保険料や雇用保険料、所得税)を会社が負担・補助する場合は、社員の給料に該当します。
けれど、生命保険料や自賠責保険料は、社員の地位にあるために負担しないといけないものではありません。これを会社が負担・補助する場合は福利厚生にあたり、社員の給料にはなりませんので注意が必要です(所得税上の「給与所得」の取扱いとは異なる)。
社員の給料にあたらないものとは
では次に、社員の給料にあたらないものを具体的にみていきましょう。
まず、ストック・オプション制度(社員が一定期間内に、あらかじめ決められた価格で自社株式を購入できる権利)から得られる利益は、労働の対価によるものではないため、労基法で定める社員の給料(賃金)にはあたりません。
この点は、所得税法上の取扱いとは異なります。
また、職務発明による権利(特許権など)を発明者である社員から、会社へ承継する際に支払われる相当の対価(補償金)も労働の対価ではありませんから、同じく社員の給料にはあたりません。
さらに、弔慰金など会社がご遺族に「死者を弔い、遺族を慰める」という趣旨で支給するものは、社員本人に支払うものではありませんので、これも社員の給料にはあたりません。
出張の旅費・日当は社員の給料になる?
前述のように、会社が社員に支給するものはいろいろありますが、そのすべてが社員の給料(賃金)になるわけではありません。
支給条件が明らかであり、社員の労働、また社員としての地位にあることに対して支給されるものだけが社員の給料となります。ですから直接家族や遺族に支給するお見舞金はこれに該当しません。
ただし、支給条件が明らかであっても実費弁償的なものは労働の対価とはいえませんから、社員の給料ではありません。
従って、出張の旅費や日当は出張に伴う実費弁償として、社員の給料にはなりません。
なお、金一封や大入り袋、保養施設の無料優待チケットなどの支給条件が明らかではなく、任意的なものは社員の給料ではなく福利厚生になります。ガソリン代の補助、ビジネススクールの学費など恩恵的なものも同じく福利厚生です。
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どんなものが社員の給料にあたり、あたらないのかをみてきました。社員の立場としてはこれで十分だと思います。
ですが企業の立場としては、社員にまつわるお金関係をひっくるめて「人件費」という概念に置き直して考える必要があるからです。事業を健全な状態で継続させていくには、企業の支払い能力とそれ相応の適正な人件費のバランスを考える必要があります。
だからこそ、冒頭でお伝えしたように、労基法で定める賃金にあたるものとあたらないものを混同してしまいがちです。
今回の記事をもとに、自社の人件費について振り返る機会にしていただければと思います。社員さんの給料にまつわる疑問、質問にすんなり応えることができると、働き手の安心感にもつながります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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